DVD『SPACE SHOWER ARCHIVE ニューエスト・モデル LIVE 9202』発売によせて オオクマリョウ
 早くも伝説のロックバンドとなった感のあるニューエスト・モデルの1992年のライヴが、15年の時を経て、『SPACE SHOWER ARCHIVE ニューエスト・モデル LIVE 9202』と題したDVDになって遂に発売された。もちろん「魂花時報」読者の皆さんの手元にはもう本作が届いていると思うので、この時期の彼らの姿に関しては遠藤妙子氏による愛情あふれるライナーノートに譲ることとして、ここではニューエスト・モデルという不世出のロックバンドに対する個人的な想いを交えながら、ライナーで触れられていない事象を拾いつつ、当時を振り返っていくことにする。
 ニューエスト・モデル……。その名を口にし、耳にするたびに、僕の頭の中の時計の針は、一気に少年時代まで逆戻りする。
 時代はバンドブーム。それまで脈々とアンダーグラウンドに息づいていた自主制作の潮流は、バブル的な熱狂の中で口当たりの好い「インディーズ」という言葉に置き換えられ、本来は自主独立を標榜していたはずのその看板さえ、大手資本の肝煎りによって見事にフランチャイズ化され、単なる「メジャー・デビュー予備軍養成校」になりつつあった時期だ。成績のいい子から順番にメジャーへと誇らしげに羽ばたいていく、そんな一見まぶしげで、その実どうしようもなく出来レース臭い「インディーズ・シーン」が形成されていく中、空虚な状況を嘲笑うかのように、また、東京中心のシーンを撃つかのように、かねてより自主独立の気運が高かった関西シーンから登場したのが、強烈な自負を込めたバンド名を冠した彼ら、(ザ・)ニューエスト・モデルだ。
 僕が彼らの存在を知ったのは1988年。RBFからの1stアルバム『センスレス・チャター・センスレス・フィスツ』をターンテーブルに乗せたのが全ての始まりだった。その前年、UKパンク勃興10周年ということで音楽誌は競って特集を組み、レコード店にはいわゆる初期パンクの定番が並び、僕のような後追い世代にも情報が届きやすくなっていた時期でもあった。ピストルズ、クラッシュ、ダムド、バズコックス、ハートブレイカーズ、ヴァイブレーターズ……といったパンク・クラシックスを、初めて触れる刺激物として熱に浮かされたように追い求める中、日本のパンクバンドもチェックしてみようかな、という程度の意識で雑誌を頼りに聴き集める中で、初めて直感的に生々しく届いたのが彼らのレコードだったのだ。それは宿命的な出会いと言ってもいいかもしれない。
 スピーカーのコーン紙をぶち破る勢いで鳴り響く、明確な意志と詩趣を湛えた野太い歌。性急かつダイナミズム溢れるバンド・アンサンブル。凛としてストイックな姿勢。そして何よりも、中川敬という名のヴォーカリストの、あの眼。これこそが僕が思うパンクだった。ホコ天のアイドル然とした一連のビート・パンクや、ストリート上がりの不良を演じるヤンキー・パンク勢とは明らかに一線を画していた彼らの全てが、あまりにも刺激的だったのだ。そんなパンクロックの洗礼を受けたばかりの純朴な少年に引導を渡したのが、盟友メスカリン・ドライヴと共に設立した自主レーベル、ソウル・フラワーの第1弾として放った1988年の2ndアルバム『プリティ・ラジエーション』。うっかり45回転で鳴らしたストラングラーズのような、硬質で挑発的なサウンドに貫かれた本作を聴き返すたび、音楽室から持ち出した備品のガットギターに「沈黙は服従なり」と極太マジックで大書して憚らなかった、嬉し恥ずかしサラダデイズがまざまざと蘇る。
 1989年、関西在住のまま活動するという前例のない条件付きで、ソウル・フラワー・レーベルごとキングに移籍。メジャー・シーンに身を置いて、敵を増やすことを恐れず突き進む道を選んだ彼らは、手はじめにシングル<ソウル・サバイバーの逆襲>を放ち、続いて3rdアルバム『ソウル・サバイバー』をリリースする。起伏に富みつつどっしり構えた、ビートルズやストーンズがルーツの一端にあることを窺わせる楽曲が並ぶ。この時点で早くもパンクロックの類型から逸脱したサウンドを確立していて、当時、血がたぎるほどの熱狂と共に若干のとまどいを覚えたことも、あくまで個人的な記憶として付記しておこう。彼らがここで示した進化は、続く1990年の4thアルバム『クロスブリード・パーク』で爆発的に開花する。ラテン、ファンク、アイリッシュなど極めて多様な味付けが施されたそのサウンドは、パンクロックはおろか広義のロックの範疇をも軽々と跳び越え、彼らが到達した前人未踏の地平を知らしめるものだった。
『SPACE SHOWER ARCHIVE
 ニューエスト・モデル LIVE 9202』
1月26日発売
デジタルサイト株式会社
DEJR-1004 ¥3,990
<DVD>
1. 報道機関が優しく君を包む<PART.1>
2. 車といふ名の密室
3. もっともそうな2人の沸点
4. こたつ内紛争
5. 杓子定木
6. みんな信者
7. ひかりの怪物
8. 十年選手の頂上作戦
9. ソウル・フラワー・クリーク
10. 知識を得て、心を開き、自転車に乗れ!
<アンコール>
1. エンプティ・ノーション
2. 秋の夜長
Artist-Direct Shop 405 にて、販売中!
 そして1992年2月21日、彼らの集大成と言える5thアルバム『ユニバーサル・インベーダー』を難産の末に産み落とす。レコーディングはその前年、1991年の3月から始まっていた。充実した内容に比例する十分な制作期間をおいて、綿密に作り込まれた作品だったのだ。本作に先駆けて放った<もっともそうな二人の沸点 C/W 報道機関が優しく君を包む [PT.1]>(1991年6月21日)、<知識を得て、心を開き、自転車に乗れ! [PT.1&2]>(同9月21日)の2枚のシングルで、彼らが次に向かっている地平の一部を垣間見せていたことも追い風となり、本作はオリコン・チャート初登場10位を記録。ちなみに音楽誌『クロスビート』のリーダーズ・ポールでは、1991年の「最優秀日本人バンド/アーティスト」に、ニューエスト・モデルがフリッパーズ・ギター、麗蘭に次いで第3位にランクイン。翌年(1992年)は、首位こそ少年ナイフに譲ったものの、第2位に浮上。ニューエスト・モデル〜ソウル・フラワー・ユニオンを通しての長いバンド史の中でも特筆すべき充実期だったのだ。少し前置きが長くなったが、その充実期の中核をなすトピックである『ユニバーサル・インベーダー』リリース直前に行われたライヴが、今回このDVDに収められているのだ。
 収録は1992年2月17日。会場は今はなき新宿・日清パワーステーション。ベーシストが鈴木友之から河村博司にチェンジしてわずか3か月の頃だ。SPACE SHOWER TVの収録だけあって、何台ものカメラが様々な角度からステージを追う中、ほとんどMCらしいMCも入れず、後期の代表曲と言えるナンバーを矢継ぎ早に繰り出していく。多数のゲスト・ミュージシャンを加えてのスタジオ録音CDとは異なり、ライヴの現場での必要最小限の音数に絞ったシンプルなサウンドは、意外にも現在のソウル・フラワー・ユニオンのライヴと非常に近い雰囲気を持っている。現在に至るまで絶え間なく変化を繰り返してきた彼らだが、ライヴの現場で見せる本質的な部分は変わっていないことがここから読み取れるだろう。メスカリン・ドライヴから内海洋子&高木太郎がゲスト参加したこのライヴでは、記録によれば、現在も重要なレパートリーとなっている<嵐からの隠れ家><クライ・ベイビー・クライ>もプレイされているはずだ(この2曲は本作には収録されていない)。
 後半に登場する内海洋子が強烈な存在感を振りまきながら場を盛り上げるが、このパターンが確立されるのはまさしくこのツアーから。この日以降は、それに伴って<ソウル・フラワー・クリーク><知識を得て、心を開き、自転車に乗れ!>といったP-FUNKマナーのヘヴィー・ファンク・チューンの連発が恒例となり、特に後者はインプロヴィゼーションの時間がどんどん長くなってゆく(ちなみにこの10ヶ月後の12月に行われたライヴを収録した映像作品『ソウルシャリスト・パーティー』で、超ロング・ヴァージョンの<知識を得て、心を開き、自転車に乗れ!>を観ることが出来るが、残念なことに現在廃盤。乞うDVD化!)。さらに、この1ヶ月後の3月に行われたライヴ以降、メスカリン・ドライヴの伊丹英子もライヴの後半にギターで参加するようになり、両バンドの融合が進み、P-FUNK化、そのまま1993年のソウル・フラワー・ユニオン結成へと雪崩れ込んでゆくことになる。
 この3ヶ月後の5月にメスカリン・ドライヴ(中川敬&奥野真哉参加)が曲作りのための合宿を行っているが、1993年11月にソウル・フラワー・ユニオンの1stアルバムとして発売される『カムイ・イピリマ』の収録曲は、この時期にほぼ出揃っている。両バンドの「ファンク路線」から「トラッド(民謡)路線」への変化はそのあたりからだと思われる。大きな変革を目前に控えてのライヴであり、そういう意味でも非常に重要な、まさに革命前夜、風雲急を告げる時期のドキュメントと言えるだろう。
 なお、ほぼ同時期に撮影された映像に、プロモ・ビデオ<ソウル・フラワー・クリーク>がある(3月11〜12日シューティング)。こちらはDVD『ソウル・フラワー・クリーク 1988〜1992』に完全収録されているので、こういった背景を踏まえた上で見直してみると、また新たな発見があるに違いない。
 最後に、1993年のソウル・フラワー・ユニオン結成以降の流れに関してもこの際少し触れておきたかったのだが、紙数が尽きた。それは来たるべき『ゴースト・キネマ2』リリースの機会に改めることとして、今はただライナーノートで遠藤氏が書いているように「体も頭も踊りまくって」しまいたい。『センスレス・チャター・センスレス・フィスツ』に滅多打ちにされた少年時代から現在までの、長いようで短かった歳月を振り返りながら。
NEWEST MODEL
中川敬(Vo&G) 奥野真哉(Key) BEN(Dr) 河村博司(B)
<ゲスト>
MESCALINE DRIVE
内海洋子(Vo) 高木太郎(Per)
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