ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、初のアコースティック・ソロ・アルバム!!

中川敬

中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)『街道筋の着地しないブルース』

再生の時。着地しないブルースを抱えながら、詩(うた)は自由を目指す! 中川敬、ソウルシャリスト・エスケイプ『ロスト・ホームランド』(1998)以来になるソロ・プロジェクト。新曲、セルフ・カヴァー、アイリッシュ・トラッド、浅川マキやチューリップのカヴァー等、中川敬がひとりで作り上げた、全14曲の解放歌集。

風来恋歌/夜に感謝を/街道筋の着地しないブルース/少年/ひかり/満月の夕/日高見/いちばんぼし/しっぽの丸い小犬/ひぐらし/死んだあのコ/野づらは星あかり/寝顔を見せて/男はつらいよのテーマ 全14曲収録
LINER NOTES
中川敬 (ソウル・フラワー・ユニオン)『街道筋の着地しないブルース』

 ソウル・フラワー・ユニオンというロック・バンドで活動している中川敬が、初のアコースティック・ソロ・アルバムとなる『街道筋の着地しないブルース』を完成させた。
 レコーディングを開始したのは去年の11月で、このタイトルは当初から決めてあったものだという。タイトル曲は新曲で、レコーディングしたのは2月。そして全14曲のうち10曲ほどベイシックな音が録れた段階で、3月11日の東日本大震災が起こったのだった。
 この日を境に、想像を絶する津波による被害と、どこまで被曝するのか判らない原発事故に対峙し続けていくしかない長期戦が始まったわけだが、初めの数日間は、気持ちを整えるだけで精一杯だった人が多かったのではないだろうか。
 そんな震災直後、YouTubeにアップされてる「満月の夕」の昔のライヴ映像に、岩手の人が「この曲を聴いて、地震が来てから初めて泣きました。緊張して気が張り詰めて、泣くことすら今まで出来なかった…。ありがとう」とコメントをつけた。それを発見した中川敬は涙が止まらなかったという。そして「泣けてちょっとすっきりしたというか、よっしゃ、今の自分にやれることをやっていこうって気持ちにさせてもらった」のだという。
 「満月の夕」は、1995年1月17日に起こった阪神淡路大震災の焼け跡と瓦礫の街から生まれた名曲である。中川敬はたまたまこの曲の作者であり演奏者であり唄者となったが、中川敬個人の才能を越えて、被災地の人々の気持ちが奇跡的に凝縮されたのではないかと思う。そしてこの曲は、東日本大震災の被災者にも伝わっていたのだった。
 『街道筋の着地しないブルース』を制作するにあたり、中川敬は、あの日から16年めとなる1月に、新たなアコースティック・ヴァージョンで「満月の夕」をレコーディングしていた。それを、今聴きたい人がいるかもしれないと思い、まだミックス前だったが急遽公開した。東日本大震災から4日め、3月15日のことである。
 そして3月下旬に、大阪、渋谷、横浜でソウル・フラワー・ユニオンのライヴが行われた。ぼくが観たのは3月26日の渋谷 O-Westだが、その場は、生き残った大勢の友人たちと震災後初めて再会する場ともなって、張り詰めていた気持ちが解きほぐされていった。本当に深刻な被災地は数100キロ離れたところにあり、東京にいる人間が生き残ったなどと思うのはナイーヴすぎだと判ってはいたのだが。
 1曲めに配されている「風来恋歌」は、アルタンの『ブルー・アイドル』(02年)に収録されているアイリッシュ・トラッド、「プリティ・ヤング・ガール」という美しすぎて切なくなるようなメロディの曲に、独自の日本語詞をつけて歌ったものだ。これが、3.11の後、最初に録った曲だった。当初は原曲に忠実な和訳を考えていたが、詞は変わっていったのだという。ぼくはこの「風来恋歌」を聴いた瞬間に救われた気がした。
 「いちばんぼし」は、4月に書いて録音した新曲で、当然、頭の中は被災地のことで一杯だったという。
 ラストに配されている「男はつらいよのテーマ」も4月に録音した曲。被災地のことばかり考えている日々のなか、貧しいながらも尊厳に満ちた、半漁半農の東北の絶景と、あの「男はつらいよ」の色々な旅の中のシークエンスが重なったとのことだ。
 4月24日に代々木公園野外ステージでアースデイ・コンサートが開催されて、ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザンが出演した。終演後、中川敬、奥野真哉、高木克、スタッフの安部くん、酒井くん、ぼくの計6人で、車2台に分乗して東北へと向かった。深夜に仙台の宿に到着して、翌25日に、石巻と女川で、我々は初めて被災地を目の当たりにした。26日に、仙台から、亘理、白石、福島に立ち寄って、27日未明に東京に戻ってきた。移動中、ぼくはほとんど「不死身のポンコツ車」に同乗させてもらっていた。大阪に住んでいる中川敬は、最後はひとりで運転して帰って行った。その道すがら、中川敬の頭の中で鳴り響いていたメロディがあった。それが最後に録音された「日高見」という2分ほどのインストゥルメンタルの曲になった。被災地に足を運んだ後、初めてできた曲に歌詞(言葉)がなかったのは、現場でただただ立ち尽くしていたときの気持ちの現われかもしれない。
 『街道筋の着地しないブルース』は、6曲めに「満月の夕」がきて、「日高見」、「いちばんぼし」へと続いていく。阪神淡路大震災から東日本大震災の現場へと繋がる想いが、ここに描かれているわけである。
 その一方で、この『街道筋の着地しないブルース』には、3.11以前に普通に録音された曲がたくさん収録されていてアルバムを彩っている。
 「夜に感謝を」はソウルシャリスト・エスケイプの『ロスト・ホームランド』から、「ひかり」は神戸のボランティア団体「すたあと長田」のチャリティー・コンピレーション『風ガハランダ唄〜SAVE THE START NAGATA OF KOBE』に収録され『ロロサエ・モナムール』で再演された曲、「ひぐらし」は『カムイ・イピリマ』に内海洋子のヴォーカルで収録されていた曲、「死んだあのコ」は『キャンプ・パンゲア』、「野づらは星あかり」は『スクリューボール・コメディ』、「寝顔を見せて」は『カンテ・ディアスポラ』に収録されていた曲のセルフ・カヴァー。
 「少年」は、アコースティック・アルバムを作るなら絶対に入れたかったという浅川マキのセカンド『Maki II』(71年)に収録されている曲のカヴァー。「しっぽの丸い小犬」は、チューリップの4枚めのシングル『夏色のおもいで』(73年)のB面曲のカヴァーで、そらちゃん、ゆめちゃんが赤ん坊のころ家でしょっちゅう弾き語っていた曲とのことだ。
 5月16日の夜から、再び被災地へと向かった。今度は、中川敬、高木克、リクオ、スタッフの大熊くん、安部くん、吉田くん、ぼくの計7人。今回は5か所でライヴを行うことができた。その初回、17日に石巻のライヴ・ハウス、ラ・ストラーダでライヴが始まる前に、完成したばかりの『街道筋の着地しないブルース』を流した。それは新品の音楽が、被災地に解き放たれていくようだった。
 『街道筋の着地しないブルース』は、奇しくも3.11を挟んで制作されることとなった。ここには、去来するさまざまな気持ちが宿命的に練り込まれている。

 (石田昌隆)


infomation
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サイト“WEB JUICE”にてインタビュー掲載。



サイト“HOTEXPRESS”にてインタビュー掲載。



サイト“京都で遊ぼうMUSIC”にてインタビュー掲載。



サイト“Rooftop”にてインタビュー掲載。



<満月の夕>マスタリング前段階を先行試聴実施中。



<ひかり>ラフMIXを収録したチャリティー・コンピ
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ソウル・フラワー・アコースティック・パルチザンによる発売記念ツアー無事終了!
中川敬 アコースティック・ソロ・アルバム 『街道筋の着地しないブルース』発売記念地方巡業 〜アコースティック編〜
7/11(月)心斎橋JANUS
7/13(水)名古屋TOKUZO
7/14(木)長野ネオンホール
7/16(土)白石・カフェ ミルトン
7/18(月・祝)渋谷CHELSEA HOTEL