中川敬、『銀河のほとり、路上の花』(2012)に続くサード・ソロ・アルバム!書き下ろしの新曲群に加えて、ビリー・ブラッグ、ルー・リード、ジョニ・ミッチェル、忌野清志郎、仲井戸麗市、シーナ&ロケッツ、カンザスシティバンドのカヴァー等、全篇アコースティック楽器で仕上げた、全15 曲の解放音曲集。ゲスト・ミュージシャン: 船戸博史(ふちがみとふなと)、藤井一彦(グルーヴァーズ)、GO(JUNIOR)、磯部舞子、河村博司、高木克
世界に誇る本物ミクスチャー感覚はその音楽性だけにはとどまらず、サウンド・メイクにおいてもレイヤーの名人なので、逆に音数の少ないアコースティックも聴いてみたいと思っていたが、早3作目とな! 名曲の自分的基準に「泣かせ曲じゃないのに涙出そうになる」というのがあるが、「団結は力なり」は落涙を堪えながらダビングした。これだけの人間力の持ち主のソロ作でありながら、作者不詳の名画のよう。背景の一部になれて光栄です。 藤井一彦(THE GROOVERS)  十字路での踏ん張りと思索、みなしごの生命力、ひとつの名前が持つ重さ、街の風景が訴えかけるメッセージなどが歌われたオリジナル曲の数々、ルー・リードやシーナ、忌野清志郎の曲のカバーに込められた深い追悼と熱いリスペクトの思い、そして働く者の団結を歌いあげる曲など、中川敬さんの新しいアルバムを聞いていると、彼こそはぼくの歌の同志だということを強く感じる。中川敬さんはまさにぼくが歌いたいこと、ぼくがやろうとしていることをやっていて、同志だけではなく身内という思いすらしてしまう。やっぱり彼はぼくが1965年の夏頃、青春真っ盛りに思わず作ってしまった隠し子なのだろうか。 中川五郎 ヘッドフォンで一曲づつ、目を閉じながらじっくり聴かせてもらいました。主人公一人一人の物語が鮮明に目の前に現れ、何本も短編映画を観ている様な気持ちになりました。中川さんの表現力の凄さに、改めて感銘を受けました。音楽って素晴らしい。勇気をもらいました。 難波章浩(NAMBA69 / Hi-STANDARD) 路上を駆けまわる日常から絞り出される声の圧倒的な力! 中川敬はまさに、この混迷の時代が要請した吟遊詩人だ。 野間易通(Counter-Racist Action Collective) ベテランなのにベテランな技とフレッシュさが同居した渋辛甘口なアルバムです。 加藤ひさし(THE COLLECTORS) 怒りさえ やさしさに感ず なかがわの 流れ変わらず はや三枚目 曽我部恵一 これほど音楽に対して純粋に立ち向かってきた方は世界中でも稀だと思います。思い入れあふれるカバーがたくさん聴ける今作も素晴らしいものでした。中川さんはこうして音楽の中に宿る精神のバトンを繋いで行くということに、とても意識的な方だと思っていて、僕自身ただ聴いて満足するだけでは物足りなかったので、「アリラン」を自分でも歌ってみました。明日から韓国の光州へ行くので、この歌をこっそり抱きかかえていこうと思います。これまで音楽を聴き続けて手にしたバトンのうちの、忘れ難いひとつとして。 七尾旅人 やさしいアルバムだなあ。パンクあがりの中川くんはこんな言い方嫌がるでしょうが、新しい歌もカバーの選曲も演奏もトーンもフィーリング全部。おやじに歌ってもらってるような感じがして(実際の親父は歌いませんが)、俺は聞きながら幼少期のことをずっと考えてた。それがロックとかフォークとか民謡とか関係なく、家族とともに生きている地に足ついた男の歌だと思ったよ。ツアーの帰り道に何だか寂しい気持ちになったら、ハイエースの中で一人で聞くリストに入れました。中川くんありがとう。 バンバンバザール 福島康之 変わっていくものと 変わらないものが 時にからまりあって 夕陽をひきずっていく 家の灯から 遠くはなれた 路地裏を 走っていく 歌がある 真島昌利(ザ・クロマニヨンズ/ましまろ) 信念のボーカリスト中川敬、ハンパ無い安定感と存在感。その野太い声の魅力を存分に堪能出来るアルバム。ファルセット歌唱が新鮮な仲井戸麗市のカバーM-10。三線という楽器の新たな可能性を見せてくれるM-5。膨大な読書量と映画鑑賞、ハイペースなライブやデモ参加、震災復興活動などの経験が裏付けするリアルな現場感とブレないメッセージ。変わりゆく時代と世界の中で日々アップデートを繰り返しているからこそ、彼は「同じ場所」に立ち続けているのだ。 知花竜海(DUTY FREE SHOPP.) 「その背中はわたしたちの道標。  そのギターはともに戦う同志。  そして歌声は背中をおしてくれる力。  心の”アニキ”中川敬さんのソロアルバムに今日も勇気をもらってます。」 大島花子 歌の力を信じることが良くも悪くも手軽になってしまった新しい世代に、こういう血と肉でそうする音が届くといいなと思いました。 大森靖子 中川敬氏の三枚目となるソロアルバムが出た。前作「銀河のほとり、路上の花」で披露した優しさあふれる歌声とほとんど一人で演奏したという弦楽器のフレーズそして音色の美しさは、SFUやモノノケ・サミットにおける中川氏のパフォーマンスを知る者にとって新鮮な驚きそのものであった。今作「にじむ残響、バザールの夢」では前作に増して新しさを感じることができる。中川氏至上最高にたおやかで色香まで漂ってくるような歌声にヤラれた。「ROCK」とか「闘争」という言葉に引いてしまうふんわり系女子たちにも受け入れられるのではないだろうか。日本のロック史において確固たるポジションを確立した中川氏が自らを大型新人フォーク歌手(!)と称し新たな世界を提示している、この姿勢に我々後続は大いに励まされる。それにしても選曲といい歌いまわしといいとことんニクイこのアルバム、「どこまでモテようとしとんねん!」と本人にツッコミを入れようと思った次第。 リクルマイ 新人フォークシンガー、中川敬のはや3枚目となるソロ作品。このご時世に、創作ペースが早過ぎるのではないか、前2作の輝きが失せてしまうんちゃうか、という余計な心配は杞憂に終わりました。 「うた」のアルバムだった輝かしい1作目、その延長線上にある2作目を確実にアップデートする、新しい時代のロックアルバム。もう一度言います。ロックアルバムです。 何よりも、中川敬という素晴らしいギタリストが、縦横無尽にギターを弾きまくっていることが、ファンにはたまらない。彼のギターは律儀で職人的で、何よりトーンが素晴らしい。 アーティストというものはいつの時代も誤解され、手垢にまみれながら、全てを振り払うべく新しいものを生み出し続ける。「ニューエストモデル」という粋な言葉が、この作品において新しい意味を持ったに違いないだろう。超名盤。 岸田繁(くるり) まだ震災は終わっていないのに。 すっかり忘れてしまったかのように、 あるいは思い出させないために、 どうでもいいことや、呆れるほど馬鹿げたことが、 テレビやインターネットに溢れかえっている。 地に足をつけて、過去と未来を繋ぐ。 この狂った日々を、生きてゆくために、 音楽には、何ができるのか? その問いかけに答えてくれる15編の旋律と言葉と歌が、ここにはある。 高野寛
 中川敬の3 枚めのソロ・アルバム『にじむ残響、バザールの夢』が完成した。  タイトルを知った瞬間、これは傑作に違いないと思った。バザール(市場)は、人々が集まって秩序が生まれ、経済が動き出す現場であり、国家が人々を管理することに対抗する概念を象徴している。残響は、人々の声が時空を超えてこだましている風景を想起させる。SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の呼びかけで国会前に集まった幅広い世代の人々の声や、辺野古に新基地を建設することに反対してキャンプ・シュワブのゲート前で座り込みを続けている沖縄の人々の声が、じんわりとこの国に浸透していく様子を現わしているかのようだ。  ラストの曲〈団結は力なり(ゼア・イズ・パワー・イン・ア・ユニオン)〉は、今年公開された映画『パレードへようこそ』のエンドロールに流れたビリー・ブラッグの曲のカヴァーである。元々は86 年の『トーキング・ウィズ・ザ・タックスマン・アバウト・ポエトリー』に収録されていた曲で、トラッドのような曲調といい、歌詞の内容といい、中川敬がカヴァーせざるをえない曲だ。中川敬はビリー・ブラッグと対談するなど(『ミュージック・マガジン』92 年8 月号)実際に交流があったが、今、このタイミングでカヴァーする機会を得たことに物語性を感じないわけにいかない。  『パレードへようこそ』は、1984 年から85 年にかけてのイギリスが舞台。長期間にわたって行なわれた炭鉱労働者のストライキを、ゲイの人たちがサポートしたという実話に基づいている。当時、特に84 年は、イギリスは最も失業率が高かった年であり、中距離核ミサイルの欧州配備によって東西冷戦の緊張が最も高まった年でもあった。しかし一方で、国政は保守党のサッチャー政権だったが、GLC(大ロンドン市議会)は労働党が与党で「GLC Against Racism」というスローガンを掲げるといったオルタナティヴな動きも活発な年だった。日本でも最近、LGBT のことやレイシズムについて理解を深めて大衆運動に参加する人が増えてきている。その動きに、当時のイギリスと似た雰囲気を感じることがしばしばあった。そんな時期に『パレードへようこそ』が公開され、中川敬が〈団結は力なり〉をカヴァーしたのだった。  ラストにこの曲を配したことによって、冒頭の1 曲めから5 曲めまで立て続けに奏でられる新曲に、この1 年ぐらいの気持ちがヴィ ヴィッドに織り込まれていることが明確に伝わってくる。歴史の遠近感を照射するように曲が配列されていて鮮やかだ。  アルバムはまず、〈十字路の詩〉という曲から始まる。中川敬のアコースティック・ギターに、磯部舞子のフィドルとパンクバンド JUNIOR のGo! によるティンホイッスルが入ってくるアイリッシュ・フォーク調の爽やかな曲だ。ここで歌われているのは、十字路に佇んでいる「君」の気持ち。十字路とは、クロスロードのことであり、今この瞬間が歴史の岐路であることを暗示している。  〈地下道の底で夢を見てる〉もティンホイッスルが入ったアイリッシュ・トラッド風味の曲で、終戦後、上野駅の地下道などにいた浮浪児の視線をシミュレートしている。戦後闇市の時代の空気感に歩み寄ろうとしているのである。戦時中のことと、60 年代以後のことはさまざまな角度から知る機会があるけど、このあたりは意識が空白になりがちだ。ここに目を向けることにより、戦時中から今現在までの時代の変遷がひと繋がりになってくる。  〈異国に散ったあいつ〉は、ザ・グルーヴァーズの藤井一彦によるブルージーなハーモニカが効いている曲。具体的な場所が歌詞に登 場するわけではないが、この曲が2015 年2 月初頭に書かれたものであるということから何を歌っている曲なのかは想像に難くない。異国での戦争に荷担することになりかねない法律が審議されている今の日本では、遠い国での戦争も人ごとではない。  〈にじむ残響の中で〉は、中川敬が気持ち良さそうにアコースティック・ギターを弾きながらスキャットで始まる曲。転調しながら美しく紡がれていくメロディが印象的だ。大阪鶴橋での排外主義デモのカウンターの帰り道で脳裏に鳴ったメロディから作られている。  〈ひとつの小さな名前〉は、アコースティック・ギターに、三線、フィドル、ティンホイッスルが加わり、厳しい現状を抱えた個人の 奥底から優しい気持ちが溢れ出るような美しい挽歌になっている。  以上5 曲が新曲。いかにもプロテスト・ソングでございますというような厳ついスタイルの曲はなく、中川敬もメンバーのひとりと して参加しているソウル・フラワー・モノノケ・サミットの『アジール・チンドン』(1995)に収録されていた〈竹田の子守歌〉のような、浄化された怒りから生まれた美しいメロディの曲が並んでいて心を打つ。  6 曲めから12 曲めまではカヴァーが続くが、その最初が〈アリラン〉。ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの『レヴェラーズ・ チンドン』(1997)に収録されていたこの曲もまた、悲しいほどに美しいメロディの曲だ。  7 月21 日に東京の代田橋にある「てぃんさぐぬ花」という店で見た中川敬の弾き語りライヴ(「諸国巡業ひとり旅」)では、この新作に収録された曲をいち早く何曲か実演していて、アコースティック・ギター1 本の弾き語りで〈アリラン〉も歌った。20 年前、阪神淡 路大震災の被災者たちの前で頻繁に行なわれていた出前慰問ライヴで1 日に5 回歌った(歌わさせられた)こともあるというこの曲は、中川敬の生涯で〈満月の夕〉の次に多く歌った曲なのだ。アルバムでは、アコースティック・ギター、三線、ふちがみとふなとの船戸博史によるコントラバスによる演奏をバックに丁寧に歌われている。  なお7 月21 日の「てぃんさぐぬ花」でのライヴの企画とPA はC.R.A.C.(Counter-Racist Action Collective)の野間易通が担当 していて、3.11 以後のデモの現場でよく見かけるラッパーのECD も来ていた。そしてソウル・フラワー・ユニオンの『アンダーグラ ウンド・レイルロード』(2014)の収録曲〈グラウンド・ゼロ〉をやったとき、中川敬の演奏に被せてECD が「言うこと聞かせる番だ俺たちが」とラップした。この共演は初めてで、目撃することが出来て感慨深い気持ちになった。野間易通とECD は、Soul Flower Union With C.R.A.C. 名義で『アンダーグラウンド・レイルロード』の限定盤に付属していた4 曲入りのCD で重要な役割を果たしていた。  「諸国巡業ひとり旅」で実際に各地で弾き語りをしたことと、身近でANTIFA プロテスターたちが活動していたこと。中川敬のその経験が、この新作に色濃く投影されている。  続くカヴァーは、ルー・リードの名曲に日本語訳した詞で歌う〈愛の人工衛星(サテライト・オブ・ラヴ)〉だ。『アンダーグラウンド・レイルロード』の収録曲〈風狂番外地〉は最近星になった先人たちに捧げられた曲だが、その先人のひとりとして13 年に亡くなったルー・リードを意識していた。晴れて日本語カヴァーする許可を得て収録された曲である。  〈コート・アンド・スパーク〉は、難病を患っているジョニ・ミッチェルの曲をインストゥルメンタルでカヴァー。ジョニへの感謝と エールの現われである。高木克が弾いているペダル・スティール・ギターが素晴らしい。  〈日食の街〉は、ソウルシャリスト・エスケイプの『ロスト・ホームランド』(1998)に収録された中川敬の曲で、ソウル・フラワー・ユニオンのマキシ・シングル『アクア・ヴィテ』(2010)でも演奏された曲のセルフ・カヴァー。敗戦直後の猪飼野(現在の大阪市東成区・生野区)を描いた、梁石日の長編小説『夜を賭けて』にインスパイアされて書き上げた曲だ。  〈月夜のハイウェイドライブ〉は、最近共演が続いている仲井戸麗市の曲。〈ユー・メイ・ドリーム〉は、シーナ&ザ・ロケッツの代表曲。今年亡くなったシーナに捧げている。〈デイドリーム・ビリーバー〉は、元々はモンキーズの曲だけど、忌野清志郎がタイマーズで歌ったことでお馴染みとなった日本語詞の曲のカヴァー。これらは2015 年頭から始まった弾き語りツアーの主要レパートリーで、(大物新人)弾き語りフォーク・シンガーとしての中川敬らしさが味わえるところだ。  〈新しい町〉は、下田卓率いるカンザスシティバンドの曲。歌詞が書かれたのは07 年で、下田が「テレビのドキュメンタリー番組や新聞記事でボスニアやアフガニスタンからのレポートを目にしていた。戦火で瓦礫となった町に暮らす人々の姿は怒りや悲しみや憎しみといった感情すら疲弊しているように見えた」ことに端を発するが、曲が発表されたのは11 年3 月11 日の直後で、東日本大震災 の復興への願いを込めた楽曲として認識されるようになった。このカヴァーでは、ペダル・スティール・ギター、フィドル、河村博司のマンドリンが彩りを添えていてさすがの仕上がりだ。  そして最後から2 曲めの位置に〈バザールの夢〉が来る。ペダル・スティール・ギターが加わった、映画のラストシーンを思わせる美しいオリジナルのインストゥルメンタルである。この曲から、エンドロール的にラストの〈団結は力なり〉に繋がる。素晴らしいと言うほかない。