「バタフライ・アフェクツ」を聴いてワクワクした。 ロックバンドのかっこよさと可能性が凝縮された、ソウル・フラワー・ユニオン史上最も開かれたアルバムだと思う。 とても高いクオリティーで野蛮と知性が手をつないでるイメージ。 新メンバーの参加はもちろん、中川敬のアコースティックギター弾き語りによるソロ活動が、バンドとアルバムに与えた影響も大きいのではないだろうか。ソロ活動によって獲得したしなやかな肉体性が、大いにバンドに還元されていると思う。 つまり、フォークシンガー・中川敬の存在こそが、バンドにロックンロール回帰をもたらしたのだ。 ソウル・フラワー・ユニオンは常に、「自分たちが生きている時代を作品に反映させる」ことに自覚的だ。日本においても、それが特別ではない当たり前の姿勢になればいいと思う。 リクオ 中川は相変わらず難しい漢字を書いてる。それが詩と言うモノだろう。それでも「エサに釣られてしまう、それがただのハリだとわかっていても魅力的なハリなら。フェイクにはつられる。それはフェイクだから」エサに釣られフェイクに惑わされながらソウル・フラワー・ユニオン「バタフライ・アフェクツ」を聞いた。 そして世界をみた。 仲野茂(亜無亜危異) 今、“ここに”必要なバンド、今、“ここに”必要な男..... SOUL FLOWER UNION、中川敬。 祝!「バタフライ・アフェクツ」.....。 その新作に込められた、様々に強固たる意思達の意味あいと、Soundの色あい、リズムの妙。 この新作には俺のバンド「麗蘭」のドラマーでもあるMr.JAH-RAHがメンバーの一員として参加し、「麗蘭」においては存在し得ないであろう曲調達に新鮮なるBeatを刻み込んでいる.....Yeah! 彼共々メンバー各位、今作への適確なる貢献に拍手と敬意を! Hey! SOUL FLOWER UNIONよ、バンドの新たなる船出、ぶちかましてくれーい! 今、“ここに”「バタフライ・アフェクツ」の意義! Yeah! Yeah! Yeah! 2018.11 仲井戸“CHABO”麗市 似非ロックバンドと愚民どもが最も忌み嫌うホンモノだよな(笑) 今作も「うた」が世界に響き渡る! 増子直純(怒髪天) 一曲目の「バタフライ・アフェクツ」が鳴った瞬間俺は中川敬の凄まじい気迫と意気込みにおされて「いったいこのアルバムどこまでゆくんだ」と心は身構えた。ところが二曲目「この地上を愛で埋めろ」三曲目「最果てのバスターミナル」と聞きすすめてゆくにしたがって、緊張していた心はむしろどんどん解き放たれてゆき、ソウル・フラワー・ユニオンの極上のサウンドに身をまかせ、高度な快感を味わいはじめる。心が喜んでいるのが感じられてくる。そしてアルバムラストの曲「深い河の彼方から」を聞き終えるにあたってついに俺の心は非常に爽快な気持ちになってなんだか心の底からうれしさがこみあげてくる。まるでライヴを終えたばかりの汗だくの中川敬が思わず快心の笑みをうかべたその瞬間を目撃し、その心根を瞬時に共有したかのようなあたたかい、非常に心地のいい感覚だ。「バタフライ・アフェクツ」は本当に素晴らしいロックアルバムだ。   俺たちは全幅の信頼をもってこのアルバムに身をねてOKだ!中川敬の凄まじい精神的、肉体的な苦闘の果てに見えてきたもの。それをオレは、今あえて単純化して”軽み”と”乾いた笑い”そして”ロックンロールサウンド”だと言わせてもらいたい。全十曲につらぬかれている半ば強引とも言える意識的な古典的ロックンロールに対するリスペクトぶりをぜひ聞いてほしい。おそらく厳選に厳選を重ねたであろうこの十曲に惜しみなく昇華する形で注ぎ込まれている。 俺は言う。「バタフライ・アフェクツ」。こいつは今聞ける本物の真性の最強の日本のロックンロールアルバムだと。中川敬は今新しいスタートラインに立ったんだと思う。 宮本浩次 Soul Flower Union新譜「バタフライ・アフェクツ」をいま聴き終えたよ。 こりゃソウルフラワー流のサイケデリックロックポップアルバムかな。 1960年代70年代80年代ロックへの沢山の愛情を感じる。 そういう音楽が好きな僕は何回もニヤッとさせられたよ。 エネルギッシュで何か人懐っこさもあって。 どこか外へ向かってゆくパワーが溢れてて。 彼らの新しい旅がまた始まったようなアルバムだね。 田島貴男(ORIGINAL LOVE) ソウルフラワーユニオン バタフライ・エフェクトという言葉は知っていたが、バタフライ・アフェクツというのは知らなかった。これが中川か? ずいぶんイメージが違うぞ、ポップに洗練されてるぞ、唄い方も優しく語り掛けてくるぞ、スモールフェイセス・テイストあり、ドアーズへのオマージュあり、ロックを飛び越えて、しっかりとしたポップナンバーが続く、これは何の歌だとか言われると歌が小っちゃくなってしまうので、歌は聴けばわかるから取材やMCで言わないでほしいが、まぎれもなく中川敬の現在がここにある。これ、オレは好きだよ♪ PANTA ROCKの塊、なんだね 今のSOUL FLOWER UNIONはね バンドっていいよね 若々しいなぁ 気持ちいい きっと皆でワイワイとアレンジして一つの物語に昇華した この空気感 独自のトーンと説得力を携えて 天晴れSOUL FLOWER UNION! 素敵です 土屋公平 中川さんの歌は、映画みたいだと思います。それも凄く骨太で優しくてリアルな映画。楽しかったね~ってみんなで話すより、一人で色々考えたくなる映画。ソウルフラワーユニオンになってからは特にそう感じます。何年か前に好きな映画は何ですか?と中川さんに聞いたらフェリーニの「道」と即答してくれました。その時、僕の中で色々なものが一気に繋がった気がしました。このアルバムも、じっくり聴きながら色々考えてみます。深いっす! 鈴木圭介(フラワーカンパニーズ)   30年近く前になろうか。紫色の髪を逆立て、リッケンバッカー330を推定でポール・シムノンのベースよりも低く構え、マイクに噛みつかんばかりに吠えていた中川敬。しかし打ち上げなどの酒席で出てくるワードは、「スライ聴かへんの?」「ネヴィル最高やで」「THE BANDのファンキーさがええねん」という感じだった。だが、ある日どこかのライヴハウスのイヴェントで共演のTHE原爆オナニーズのステージを並んで観ながら「俺、やっぱり縦(ノリ)好きやわ…」と、ボソっと言ったことがある。「エサに釣られるな」を聴きながら、そんなことを思い出した。ただ、笑ってしまうほどにノスタルジーの欠片も無いのだが。  贅肉削ぎ落とし上等。ソウル・フラワー・ユニオン史上、最もロケンロール(※当社比)なアルバムの完成おめでとう! そしてこの素晴らしい新作をオンタイムで手にすることができる皆さんもおめでとう! 藤井一彦/THE GROOVERS Welcome back to R&R! 原点回帰のロックンロール。 遠回りしなきゃ見つからないものもある。 堂々たるサウンドと言葉がジリジリとハートに染みてくる。 最高傑作リリース、おめでとう! 布袋寅泰  30年近く前になろうか。紫色の髪を逆立て、リッケンバッカー330を推定でポール・シムノンのベースよりも低く構え、マイクに噛みつかんばかりに吠えていた中川敬。しかし打ち上げなどの酒席で出てくるワードは、「スライ聴かへんの?」「ネヴィル最高やで」「THE BANDのファンキーさがええねん」という感じだった。  だが、ある日どこかのライヴハウスのイヴェントで共演のTHE原爆オナニーズのステージを並んで観ながら「俺、やっぱり縦(ノリ)好きやわ…」と、ボソっと言ったことがある。「エサに釣られるな」を聴きながら、そんなことを思い出した。ただ、笑ってしまうほどにノスタルジーの欠片も無いのだが。  贅肉削ぎ落とし上等。ソウル・フラワー・ユニオン史上、最もロケンロール(※当社比)なアルバムの完成おめでとう! そしてこの素晴らしい新作をオンタイムで手にすることができる皆さんもおめでとう! 藤井一彦 / THE GROOVERS ハートランドからの手紙_2018.11.07 「バタフライ・アフェクツ」を聴いた 楽しかった SFUファンも歓迎するだろう 非欧米音楽を経て巡り立ったロックンロール 独自の筋が通っている 一曲に込められた密度濃い演奏と物語 そこに広がる景色は果てしない 時折、純情が滲む それは、理知を悟られまいとする「野生」の隠れ蓑か いづれにしても 優れたロックンロールは、叙事的なのだと知る 歌詞を借りればこう言える 不屈のしぶといロックンロール、だ。 - 佐野元春 “番長ボイス健在!” 石野卓球 (DJ/プロデューサー)
ソウル・フラワー・ユニオンとして初の純正ロックンロール・アルバムだ。あるいはニューエスト・モデル以来の、と言い替えてもいい。 ニューエスト・モデル~初期SFU にあった、英米ロックの匂いがぷんぷんする楽曲ばかり。 新たにJah-Rah が加わったバンドとしてのグルーヴがロックンロールを呼んだのか、それとも中川敬が50 歳を越えて再び青春し始めたのか、その辺の事情は不明だが、とにかく新鮮。 ソウルフラワーといえばトラッド、ソウル、民謡、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、サイケ、チンドン、ロックンロール……とそのミクスチャーの雑食性が最大の特徴と思われているフシもあるが、その前に彼らは筋金入りの、日本屈指の、誰よりもかっこいいロックンロール・バンドなのは言うまでもないことで、それが(初めて)全面に出たのがこのアルバムなのだ。 楽曲はロックンロール、サイケ、パンク、ソウルぐらいまでにジャンルを絞り、中川敬は全曲でエレキギターに徹し(アコギなし)、メンバー以外の参加ミュージシャンはギターの木暮晋也ひとり。お囃子もない、チンドンもない。 数多の参加ミュージシャンと共に多様な音楽性が溢れ返るのがこれまでのSFU のアルバムの常だったが、このアルバムは6 人のメンバーが、中川敬のロック・センスが爆発した10 の楽曲のもとに一丸となって疾走する、そういうイメージだ。 そんなロック的な勢いに溢れた曲が続く中、ラストから2 曲目に“ランタナの咲く方へ” という、ミドルテンポのバラッドが収録されている。この曲には、ビートルズもキンクスもザ・フーも、そのエッセンスが溶かし込まれていて、中川敬の60 年代70 年代英米ロックへの究極のオマージュと言えるような楽曲になっている。歌詞も素晴らしく、アレンジも普遍的で、名曲と言える出来だと思う。でも、よく考えると、この曲はこれまでのソウル・フラワー・ユニオンにはあり得なかったと思う。反権力の視点から見た音楽地図を広げようとするSFU 的感性において、英米の王道ロックへのオマージュは優先されるはずもなかったと思う。 そして、今それをやるからには、SFU の中で、中川敬の中で、「ロック」が新たな「必然」を帯びたのだと思う。ロックンロール/ パンク・バンドだった25 年前の彼らにとって民謡やチンドンやトラッドが必然となったように、今、2018 年のSFU にとってこのアルバムこそが必然なのだ。それは何故なのかは、このアルバムを聴けば一発で伝わるはずである。 ロッキング・オン 山崎洋一郎
 ついに、ついに、ついに。ソウル・フラワー・ユニオンの新作『バタフライ・アフェクツ』が完成した。全10 曲、44分23 秒。出だしのSE から最後の音の余韻まで一気に疾走していく。まぎれもないロックンロールだ。  すべて中川敬によるオリジナルでカヴァー曲はない。しかも全曲2018 年になってから作られた新曲。全体で連続するストーリーになっている感じで、今現在の時代の息吹が練り込まれている。  ヴォーカルとギター、中川敬。ギターはすべてエレクトリックで、アコースティック・ギターや三線は使っていない。キーボード、奥野真哉。ギター、高木克。ベースとコーラス、阿部光一郎。ドラム、Jah-Rah。コーラス、リクルマイという布陣で録音され、ゲストはギターの木暮晋也(ヒックスヴィル、オリジナル・ラヴ)と、一部コーラスに参加した中川ゆめ(中川敬の息子。11 歳、レコーディング・デビュー!)のみ。音の骨格が太くて粒が立っている。  最近のソウル・フラワー・ユニオンのライヴではリクルマイのレゲエの歌が聴けたり、9 月のライヴでは久しぶりに伊丹英子が加わった演奏を聴けたりと、盛りだくさんの楽しみがあったが、『バタフライ・アフェクツ』は、ベイシックな構成要素で突き詰めていて、タイトでありながら圧倒的にふくよかなビートを紡ぎ出している。グルーヴの強さをキープしつつ奥行きのある芳醇な音になっているところがポイントだ。  オリジナル・アルバムとしては、前作『アンダーグラウンド・レイルロード』(14 年10 月)から4 年ぶり。その間、SEALDs の結成(15 年5 月)と解散(16 年8 月)があった一方で、安倍政権は未だに存続している。アメリカの大統領がオバマからトランプに換わり(17 年1 月)、排外主義が世界規模で広まっている。シリアではアサド政府軍と(15 年9月に介入を始めた)ロシア軍による空爆でおびただしい数の人間が殺されたが、多くの人は無関心だ。しかし、絶望している暇はない。そういう時代に対峙して、自分なりに戦い続けていくしかない。ソウル・フラワー・ユニオンの新作『バタフライ・アフェクツ』は、今回もまた、この根源的な気持ちに寄り添ってくれる音楽になっていて本当に嬉しい。ポリティカルなメッセージを歌詞として直接吐くことはせずに、寓話に落とし込み、普遍的な世界に持って行っている。それが心の奥深くまで入ってきてストンと腑に落ちるのだ。  <バタフライ・アフェクツ>は、サイレンのようなSE で始まる。それぞれの楽器、歌とコーラスが躍動している。リズム・セクションが換わって初めてのアルバムということもあって、とりわけ強靱なグルーヴが印象的だ。「鎖自慢」という残念な感覚がはびこっている現実に立ち向かっている。  <この地上を愛で埋めろ>。冒頭の2 曲は全速力で疾走する。ソウル・フラワーらしい心地よいビートに乗って「愛と怒り」「虚妄とヘイト」といった言葉が礫のように飛んでくる。何について歌っているのかは明白であろう。  <最果てのバスターミナル>は、ミディアム・テンポのサイケデリックな曲。日本の入管による理不尽な扱いを受けて家族が切り離されている人たちへの想いが歌われている。日本は、母国に帰ったら迫害されることが明らかな人が難民認定を申請しても、まず通すことはない。そのかわり「仮放免」という極めて不安定な立場での滞在を認めているが、入管が「退去強制事由に該当すると疑う相当の理由」があると判断したら収容されてしまう。そのため普通なら難民認定される状況の人でも、恣意的運用で入管に収容されてしまうことがある。当事者本人や、仲間でも日本に滞在するための立場が弱い人は、基本的人権に係わることを主張することさえ難しい。したがって物言える日本人が彼らを支援するほかない。  <シングルハンド・キャッチ>は、パンキッシュなロックンロールに乗せて、いじめられている男の子を意を決して助けた女の子が、今度はいじめられる側になり、助けた男の子までいじめる側に加わったという実話をベースに作った曲が歌われる。  <路地の鬼火>は、ニューオリンズっぽいキーボードで始まり、ドラムが入ってきて、スライド・ギターが出てくる展開がカッコ良い。これは和歌山県、新宮の被差別部落を舞台に書かれた中上健次の初期の小説にインスパイアされて作られた曲だ。歌詞に固有名詞は出てこないが、国道42 号線を和歌山側からぐるりと回って新宮に向かう旅の道すがら、さ まざまな想いが去来している様子が歌われている。青天井の下で土木仕事をやってる友人たちへの賛歌でもあるとのこと。  <インシスト>は、ドアーズの「ハートに火をつけて」みたいな印象的なキーボードで始まる。「黙らない作法」というサビのフレーズが頭の中でぐるぐる回り続ける。  <エサに釣られるな>とは「フェイクに釣られるな」ということ。シリア関連ではロシアの「RT」やイランの「Pars Today」が戦略的にフェイク・ニュースを配信しているし、沖縄関連では名護市長選(18 年2 月)のとき自民党陣営が日ハムのキャンプ地問題に関する「フェイク演説」を行なったりという現実がある。そして残念ながら、フェイクに釣られる人が多く、陰謀論に走ってしまう人もいる。この曲は、そういう現実に対する警鐘を表現の領域で行なっているわけだが、それでいてと言うべきか、それでなおかつと言うべきか、カッコ良いロックになっていて頬が緩む。  <愛の遊撃戦>は、ちょっとレゲエが入っているビートだ。ソウル・フラワー流のパンキー・レゲエで、なかなか良い。ここで歌われているのは、沖縄戦から今に続く沖縄のこと。沖縄県知事選で玉城デニーが勝利(18 年9 月)してはっきり民意が示されたのに、安倍政権は辺野古に新基地を建設する工事を強硬しようとしている。今現在、このことで戦っている沖縄へのエールを表現している。  <ランタナの咲く方へ>。『バタフライ・アフェクツ』は全10 曲、捨て曲なし。絞り込まれ、凝縮された流れが深い説得力を生んでいる。それでもこの曲は群を抜いて素晴らしい名曲だ。ひたすら美しいメロディとスライド・ギターに泣けてくる。最後のほうで「Lalalalala……」とコーラスになり、長めのアウトロで終わる流れも完璧だ。断片的な風景を描 いていく歌詞は、何のことを歌っているのかちょっと判りずらいが、じつは「地下道の底で夢を見てる」(中川敬のソロ作、15 年の『にじむ残響、バザールの夢』収録曲)の続編として作られた曲で、街娼にならざるを得なかった戦災孤児の少女がテーマなのだという。NHK が『“駅の子” の闘い~語り始めた戦争孤児~ 』(18 年8 月)を放映したり、朝日新聞が『「浮浪児」、助けなき路上の日々 戦争孤児が見た社会の姿』(18 年8 月)という記事を今頃になって出したのは、やっと今、当事者が話し始めたからだった。「戦後」は今現在の話なのだ。  < 深い河の彼方から>も、心が清らかになるような静かで美しい曲だ。歌詞の中に出てくる「幼い日のモノクロの道 抜け出せない闇の底」というフレーズで、不意に自分の記憶を辿ってしまう。子供の頃は、大人になれば子供の頃のことを忘れてしまうのかという疑問があったが、実際はまったくそんなことはない。人は、蓄積された「記憶の残片」を抱え て生きていくものなのだ。  この文章を書くための取材という名目で、ミキシング作業中だった中川敬を祐天寺のスタジオに訪ねたのは、シリアで解放された安田純平がちょうど帰国した日だった。中川敬は、安田純平がイラクの地元武装自警団に拘束(04 年4 月)されて帰国した後、本人に会っている。そのとき『シャローム・サラーム』(03 年7 月)を渡して、カフィーヤ(アラブの男性のスカーフ)をもらった。  最終的なミキシングが終わって完成した音を聴いたのは、ドイツで難民に寛容なメルケルが党首辞任を発表し、ブラジルで露骨に人種差別するボルソナールが大統領選に勝った日の翌日である。極右排外主義や陰謀論は世界各地に存在するが、武装勢力に捕まり、開放されて帰国したジャーナリストを罵る国は日本以外にないようだ。しかし、そういう卑屈な人間がいる国でも、愛すべきポジティヴな日常はある。  『バタフライ・アフェクツ』は、ひとめぐりしてニューエスト・モデルの時代に戻ったような目の覚めるロックン・ロールだ。というか、ニューエスト・モデル時代は今以上に政治的で左翼的だったと中川敬自身が語っていて、じつは当時から一貫した道を歩んできた。シンプルな布陣で制作された『バタフライ・アフェクツ』は、奇しくも音楽のスタイルがニューエスト・モデル時代を彷彿させるロックン・ロールになったと言うべきだろう。それが今の時代に対抗するオルタナティヴな方向性を持っている。この傑作に乾杯しよう! 石田昌隆