中川敬

にじむ残響、バザールの夢

1. 十字路の詩
SONGS AT THE CROSSROADS
2. 地下道の底で夢を見てる
WE’ RE DREAMING AT THE BOTTOM OF UNDERGROUND PASSAGES
3. 異国に散ったあいつ
HE WHO DIED ABROAD
4. にじむ残響の中で
IN BLURRING ECHOES
5. ひとつの小さな名前
A LITTLE NAME
6. アリラン
ARIRANG
7. 愛の人工衛星(サテライト・オブ・ラヴ)
SATELLITE OF LOVE
8. コート・アンド・スパーク(インストゥルメンタル)
COURT AND SPARK
9. 日食の街
CITY OF ECLIPSE
10. 月夜のハイウェイドライブ
DRIVING HIGHWAY UNDER THE MOON
11. ユー・メイ・ドリーム
YOU MAY DREAM
12. デイドリーム・ビリーバー
DAYDREAM BELIEVER
13. 新しい町
A NEW TOWN
14. バザールの夢(インストゥルメンタル)
DREAM OF BAZAAR
15. 団結は力なり(ゼア・イズ・パワー・イン・ア・ユニオン)
THERE IS POWER IN A UNION
にじむ残響、バザールの夢
ECHOES BLURRING, BAZAAR DREAMING
中川敬(ソウル・フラワー・ユニオン)
NAKAGAWA TAKASHI (SOUL FLOWER UNION)

 BMtunes/XBCD-6006
 ¥2,685+税
 2015年10月7日 発売

ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬、アコースティック・ソロ・アルバム第三弾!

中川敬、『銀河のほとり、路上の花』(2012)に続くサード・ソロ・アルバム!
書き下ろしの新曲群に加えて、ビリー・ブラッグ、ルー・リード、ジョニ・ミッチェル、忌野清志郎、仲井戸麗市、シーナ&ロケッツ、カンザスシティバンドのカヴァー等、全篇アコースティック楽器で仕上げた、全15 曲の解放音曲集。

ゲスト・ミュージシャン:船戸博史(ふちがみとふなと)、藤井一彦(グルーヴァーズ)、GO(JUNIOR)、磯部舞子、河村博司、高木克

『にじむ残響、バザールの夢』特設ページ


ALL LYRICS & MUSIC WRITTEN BY NAKAGAWA TAKASHI
EXCEPT M-6, 7, 8, 10, 11, 12, 13, 15
<ARIRANG>KOREAN TRADITIONAL FOLK SONG
<SATELLITE OF LOVE>LYRICS & MUSIC WRITTEN BY LOU REED / JAPANESE LYRICS WRITTEN BY NAKAGAWA TAKASHI
<COURT AND SPARK>MUSIC WRITTEN BY JONI MITCHELL / PUBLISHED BY CRAZY CROW MUSIC
<TSUKIYO NO HIGHWAY DRIVE>LYRICS & MUSIC WRITTEN BY NAKAIDO REICHI
<YOU MAY DREAM>LYRICS WRITTEN BY SHIBAYAMA TOSHIYUKI / MUSIC WRITTEN BY AYUKAWA MAKOTO, HOSONO HARUOMI
<DAYDREAM BELIEVER>LYRICS & MUSIC WRITTEN BY JOHN STEWART / JAPANESE LYRICS WRITTEN BY ZERRY (IMAWANO KIYOSHIRO) / PUBLISHED BY SCREEN GEMS-EMI MUSIC INC.
<ATARASHII MACHI>LYRICS & MUSIC WRITTEN BY SHIMODA TAKU
<THERE IS POWER IN A UNION>TRADITIONAL ARRANGED BY BY BILLY BRAGG / JAPANESE LYRICS WRITTEN BY NAKAGAWA TAKASHI/ PUBLISHED BY SONY/ATV MUSIC PUB.(UK)LIMITED


Nakagawa Takashi:Vocal, Acoustic Guitar, Sanshin 三線

Associate Musicians:
Funato Hiroshi (Fuchigami To Funato):Contrabass(M-1 〜 15)
Fujii Kazuhiko (The Groovers):Harmonica, Resonator Guitar(M-3, 4, 15)
Go (Junior):Whistle(M-1, 2, 5)
Isobe Maiko:Fiddle(M-1, 5, 13)
Kawamura Hiroshi (Soul Flower Mononoke Summit):Mandolin( M-11, 12,13)
Takagi Katsu (Soul Flower Union):Pedal Steel Guitar (M-8, 13, 14)
Produced & Recorded by Nakagawa Takashi
Mixed by Sasahara Yoshikazu
Recorded & Mixed at Konge Jinjya Studio in Osaka (January 〜 August 2015)
Mastered by Tsukazaki Ken-ichiro (TEMAS)
Artwork & Design : Sakamura Kenji
Photo : Ueno Yoshinori
English Translation : Ohshima Yutaka
Executive Management : Kobayashi Takashi (breast / BM tunes)
Staff:Nasukawa Sumiko (breast), Sugioka Yuki (breast), Hiroi Rika (Konge Jiho), Okuma Ryo(Konge Jiho)
Stage Staff:Abe Yasuki, Matsuda Masako, Sakai Michio, Kasai Koji, Arai Susumu

 ライナーノーツ/石田昌隆

 中川敬の3 枚めのソロ・アルバム『にじむ残響、バザールの夢』が完成した。
 タイトルを知った瞬間、これは傑作に違いないと思った。バザール(市場)は、人々が集まって秩序が生まれ、経済が動き出す現場であり、国家が人々を管理することに対抗する概念を象徴している。残響は、人々の声が時空を超えてこだましている風景を想起させる。SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の呼びかけで国会前に集まった幅広い世代の人々の声や、辺野古に新基地を建設することに反対してキャンプ・シュワブのゲート前で座り込みを続けている沖縄の人々の声が、じんわりとこの国に浸透していく様子を現わしているかのようだ。
 ラストの曲〈団結は力なり(ゼア・イズ・パワー・イン・ア・ユニオン)〉は、今年公開された映画『パレードへようこそ』のエンドロールに流れたビリー・ブラッグの曲のカヴァーである。元々は86 年の『トーキング・ウィズ・ザ・タックスマン・アバウト・ポエトリー』に収録されていた曲で、トラッドのような曲調といい、歌詞の内容といい、中川敬がカヴァーせざるをえない曲だ。中川敬はビリー・ブラッグと対談するなど(『ミュージック・マガジン』92 年8 月号)実際に交流があったが、今、このタイミングでカヴァーする機会を得たことに物語性を感じないわけにいかない。
 『パレードへようこそ』は、1984 年から85 年にかけてのイギリスが舞台。長期間にわたって行なわれた炭鉱労働者のストライキを、ゲイの人たちがサポートしたという実話に基づいている。当時、特に84 年は、イギリスは最も失業率が高かった年であり、中距離核ミサイルの欧州配備によって東西冷戦の緊張が最も高まった年でもあった。しかし一方で、国政は保守党のサッチャー政権だったが、GLC(大ロンドン市議会)は労働党が与党で「GLC Against Racism」というスローガンを掲げるといったオルタナティヴな動きも活発な年だった。日本でも最近、LGBT のことやレイシズムについて理解を深めて大衆運動に参加する人が増えてきている。その動きに、当時のイギリスと似た雰囲気を感じることがしばしばあった。そんな時期に『パレードへようこそ』が公開され、中川敬が〈団結は力なり〉をカヴァーしたのだった。
 ラストにこの曲を配したことによって、冒頭の1 曲めから5 曲めまで立て続けに奏でられる新曲に、この1 年ぐらいの気持ちがヴィヴィッドに織り込まれていることが明確に伝わってくる。歴史の遠近感を照射するように曲が配列されていて鮮やかだ。
 アルバムはまず、〈十字路の詩〉という曲から始まる。中川敬のアコースティック・ギターに、磯部舞子のフィドルとパンクバンドJUNIOR のGo! によるティンホイッスルが入ってくるアイリッシュ・フォーク調の爽やかな曲だ。ここで歌われているのは、十字路に佇んでいる「君」の気持ち。十字路とは、クロスロードのことであり、今この瞬間が歴史の岐路であることを暗示している。
 〈地下道の底で夢を見てる〉もティンホイッスルが入ったアイリッシュ・トラッド風味の曲で、終戦後、上野駅の地下道などにいた浮浪児の視線をシミュレートしている。戦後闇市の時代の空気感に歩み寄ろうとしているのである。戦時中のことと、60 年代以後のことはさまざまな角度から知る機会があるけど、このあたりは意識が空白になりがちだ。ここに目を向けることにより、戦時中から今現在までの時代の変遷がひと繋がりになってくる。
 〈異国に散ったあいつ〉は、ザ・グルーヴァーズの藤井一彦によるブルージーなハーモニカが効いている曲。具体的な場所が歌詞に登場するわけではないが、この曲が2015 年2 月初頭に書かれたものであるということから何を歌っている曲なのかは想像に難くない。異国での戦争に荷担することになりかねない法律が審議されている今の日本では、遠い国での戦争も人ごとではない。
 〈にじむ残響の中で〉は、中川敬が気持ち良さそうにアコースティック・ギターを弾きながらスキャットで始まる曲。転調しながら美しく紡がれていくメロディが印象的だ。大阪鶴橋での排外主義デモのカウンターの帰り道で脳裏に鳴ったメロディから作られている。
 〈ひとつの小さな名前〉は、アコースティック・ギターに、三線、フィドル、ティンホイッスルが加わり、厳しい現状を抱えた個人の奥底から優しい気持ちが溢れ出るような美しい挽歌になっている。
 以上5 曲が新曲。いかにもプロテスト・ソングでございますというような厳ついスタイルの曲はなく、中川敬もメンバーのひとりとして参加しているソウル・フラワー・モノノケ・サミットの『アジール・チンドン』(1995)に収録されていた〈竹田の子守歌〉のような、浄化された怒りから生まれた美しいメロディの曲が並んでいて心を打つ。
 6 曲めから12 曲めまではカヴァーが続くが、その最初が〈アリラン〉。ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの『レヴェラーズ・チンドン』(1997)に収録されていたこの曲もまた、悲しいほどに美しいメロディの曲だ。
 7 月21 日に東京の代田橋にある「てぃんさぐぬ花」という店で見た中川敬の弾き語りライヴ(「諸国巡業ひとり旅」)では、この新作に収録された曲をいち早く何曲か実演していて、アコースティック・ギター1 本の弾き語りで〈アリラン〉も歌った。20 年前、阪神淡路大震災の被災者たちの前で頻繁に行なわれていた出前慰問ライヴで1 日に5 回歌った(歌わさせられた)こともあるというこの曲は、中川敬の生涯で〈満月の夕〉の次に多く歌った曲なのだ。アルバムでは、アコースティック・ギター、三線、ふちがみとふなとの船戸博史によるコントラバスによる演奏をバックに丁寧に歌われている。
 なお7 月21 日の「てぃんさぐぬ花」でのライヴの企画とPA はC.R.A.C.(Counter-Racist Action Collective)の野間易通が担当していて、3.11 以後のデモの現場でよく見かけるラッパーのECD も来ていた。そしてソウル・フラワー・ユニオンの『アンダーグラウンド・レイルロード』(2014)の収録曲〈グラウンド・ゼロ〉をやったとき、中川敬の演奏に被せてECD が「言うこと聞かせる番だ俺たちが」とラップした。この共演は初めてで、目撃することが出来て感慨深い気持ちになった。野間易通とECD は、Soul Flower Union With C.R.A.C. 名義で『アンダーグラウンド・レイルロード』の限定盤に付属していた4 曲入りのCD で重要な役割を果たしていた。
 「諸国巡業ひとり旅」で実際に各地で弾き語りをしたことと、身近でANTIFA プロテスターたちが活動していたこと。中川敬のその経験が、この新作に色濃く投影されている。
 続くカヴァーは、ルー・リードの名曲に日本語訳した詞で歌う〈愛の人工衛星(サテライト・オブ・ラヴ)〉だ。『アンダーグラウンド・レイルロード』の収録曲〈風狂番外地〉は最近星になった先人たちに捧げられた曲だが、その先人のひとりとして13 年に亡くなったルー・リードを意識していた。晴れて日本語カヴァーする許可を得て収録された曲である。
 〈コート・アンド・スパーク〉は、難病を患っているジョニ・ミッチェルの曲をインストゥルメンタルでカヴァー。ジョニへの感謝とエールの現われである。高木克が弾いているペダル・スティール・ギターが素晴らしい。
 〈日食の街〉は、ソウルシャリスト・エスケイプの『ロスト・ホームランド』(1998)に収録された中川敬の曲で、ソウル・フラワー・ユニオンのマキシ・シングル『アクア・ヴィテ』(2010)でも演奏された曲のセルフ・カヴァー。敗戦直後の猪飼野(現在の大阪市東成区・生野区)を描いた、梁石日の長編小説『夜を賭けて』にインスパイアされて書き上げた曲だ。
 〈月夜のハイウェイドライブ〉は、最近共演が続いている仲井戸麗市の曲。〈ユー・メイ・ドリーム〉は、シーナ&ザ・ロケッツの代表曲。今年亡くなったシーナに捧げている。〈デイドリーム・ビリーバー〉は、元々はモンキーズの曲だけど、忌野清志郎がタイマーズで歌ったことでお馴染みとなった日本語詞の曲のカヴァー。これらは2015 年頭から始まった弾き語りツアーの主要レパートリーで、(大物新人)弾き語りフォーク・シンガーとしての中川敬らしさが味わえるところだ。
 〈新しい町〉は、下田卓率いるカンザスシティバンドの曲。歌詞が書かれたのは07 年で、下田が「テレビのドキュメンタリー番組や新聞記事でボスニアやアフガニスタンからのレポートを目にしていた。戦火で瓦礫となった町に暮らす人々の姿は怒りや悲しみや憎しみといった感情すら疲弊しているように見えた」ことに端を発するが、曲が発表されたのは11 年3 月11 日の直後で、東日本大震災の復興への願いを込めた楽曲として認識されるようになった。このカヴァーでは、ペダル・スティール・ギター、フィドル、河村博司のマンドリンが彩りを添えていてさすがの仕上がりだ。
 そして最後から2 曲めの位置に〈バザールの夢〉が来る。ペダル・スティール・ギターが加わった、映画のラストシーンを思わせる美しいオリジナルのインストゥルメンタルである。この曲から、エンドロール的にラストの〈団結は力なり〉に繋がる。素晴らしいと言うほかない。