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あんにょん・サヨナラ
  (2005年 韓国=日本)
  監督: キム・テイル(金兌鎰)
  原題: ANNYONG SAYONAR
  主要舞台: 日本
   

  「死ぬ前にやらなければならないことがある!」
  韓国・ソウルで一人暮らしをするイ・ヒジャ(李熙子・六十三歳)には、彼女が一歳の時に日本軍によって徴用されたまま消息不明の父がいた。手元にあるのは、若かりし父の写り込んだ古ぼけた一枚の写真のみ。
  父を知らずに育ったイ・ヒジャは、子育てが一段落ついた頃から父の足取りを捜し始め、1992年、父の中国戦線での戦病死を確認する。そして1997年、あろうことか、父が靖国神社に合祀されていることを知るのであった(1959年に合祀)。家族ですら知らされなかった父の死を、靖国は知っていたのだ。父は英霊? 祀られた神様?
  本作は、イ・ヒジャの「父の合祀取り下げ」の闘いを柱に、靖国神社の本質や、「大東亜戦争」の内実を暴露しながら、「魂の拉致」とでも言うべき「軍事施設」靖国のありように肉薄した、日本人必見の日韓共同ドキュメンタリー映画だ。
  本作の狂言回し的存在の日本人・古川雅基は、旧植民地における皇軍の蛮行や沖縄戦の体験談を聞くにつれ、疑問を大きくしていた。「何故、良いお父さんだったはずの一人一人に、そんなに酷いことが出来たのか?」。そして彼は、1995年の阪神淡路大震災の際に被災地神戸でイ・ヒジャと出会い、交流の中、否応なく、先の大戦の日本人の加害性にぶち当たるのであった。
  本作の白眉は、日本の遺族、韓国の遺族、靖国賛成派・反対派、そのすべてにカメラを向け、徹底した様々な立場の人々のインタヴューによって構成されている点だろう。これは、両論併記が必要とされるぐらい、当世日本人の歴史認識が危うくなってきているという現状の証しでもあるが、それでも、カメラに映り込んだ「愛国者」たちの訴える「愛国」が如何なるものなのか、我々日本人が今何を知るべきなのか、観る者へ具体的に提示してくれている。そして、真の意味で「愛国者」が誰なのか、本作は静かに浮かび上がらせてゆくのだ。
  映画は、イ・ヒジャと古川の出会い、親交、そして彼らの靖国行動、60年目の命日の中国での法要、南京大虐殺資料館、沖縄戦跡、金沢「大東亜聖戦大碑」撤去運動、箕面忠魂碑違憲訴訟運動などを映し出してゆくが、ここで多言は無用だろう。このドキュメンタリー・フィルムにあますところなく詰め込まれた「歴史」「人生」と、心をまっさらにして向き合って欲しい。
  東京招魂社(1869年、戊辰戦争の政府軍の戦死者を祀るため明治政府が創立)の時代から靖国神社の本質は、取りも直さず、戦死者を褒め称えて「あとに続け」と戦意高揚教育することにある。出征兵士の壮行、武運長久の祈願、祝勝行事、戦死者の慰霊と、先の侵略戦争の残虐行為を兵に実行させた精神的支柱そのものである。A級戦犯が祀られているからどうとかいうような次元の問題ではない(先日、A級戦犯合祀に関わる「昭和天皇メモ」の「スクープ」があったが、大体にして侵略戦争の最高責任者は天皇ヒロヒト自身ではないのか)。そう、何度も言うが、靖国参拝問題は、こと外圧によって左右するべき問題などではなく、日本人自らが、それこそ真の「愛国的」誇りをもってして、決着をつけるべき問題なのだ。アジア中の戦死者・戦災者(日本の市民も含む)が少なからず生きている今の内にこそ、だ。
  「左」も「右」も「下」も「上」もない。ここにあるのは、国家に翻弄されたあまたの人生と、誰にも不可侵な「人間の尊厳」である。

  ちなみにタイトル、日韓間に横たわる壁と対立に「さよなら」(韓国語で「あんにょん」)しようという強い願いが込められている。この強烈な警鐘に是非耳を傾けて欲しい(上映日程はこちら→http://www.gun-gun.jp/document.htm)。

  「靖国神社に向かう主人公たちに“テメー、朝鮮に帰れ”と殴りかかる、“右翼風”の男。痛快である。もちろん“右翼が”では、ない。靖国神社に小泉首相が参拝したがる理由が、この映画を見れば一目瞭然なのだ。物理的なそれを含む、徹底した暴力の肯定。“やらせ”抜きで曝け出される靖国神社の凶暴な本性と、その暴力に凛々しく向き合う主人公、イ・ヒジャさん。確かに新しい風が吹いている。流行の韓流とは異なる風が。海峡を越えて」(豊田直巳/フォトジャーナリスト)
  「父親を戦争に動員し、死に追いやっておきながら、家族に補償するどころか、死亡の事実すら知らせない。それなのに侵略戦争の加害者を神と称える靖国神社に被害者である父を無断で合祀する。そうした日本が許せない。望まない人を合祀すべきではないでしょう。父親は、今も靖国に監禁されている。参拝を繰り返し、合祀取り下げを拒否するのは、戦争を起こした事実を認めたくないからだろう。靖国を問い返すこの映画を一人でも多くの人に広めてほしい」(イ・ヒジャ/韓国・太平洋戦争被害者補償推進協議会共同代表)