オンライン魂花時報WELCOME TO NAKAGAWA TAKASHI'S WORLD中川敬のシネマは自由をめざす!リスト > エヴァとステファンとすてきな家族
NAKAGAWA TAKASHI'S ALL CINEMAS GO FORWARD TO FREEDOM !
エヴァとステファンとすてきな家族
  (2000年 スウェーデン)
  監督: ルーカス・ムーディソン
  原題: TILLSAMMANS(TOGETHER)
  主要舞台: スウェーデン
    発売元:バップ
販売元:バップ
商品番号:VPBU-12059
定価:¥5,040(税込)

  共同体を失って久しい、相互不信の渦巻く現代人類社会にあって、「集団」で理想を追い求めること程困難なことはないだろう。
  例えば日本。1995年以降の世相の急展開をみても、そこに横たわってあるのは増幅され続ける相互不信だ。ボランティア元年、冷たくなった握り飯を分け合った阪神淡路大震災。テロ元年、危機管理の必要が叫ばれる契機となったオウム・サリン事件。どちらの話題を、よりマス・メディアが取り上げ、より国家権力が好んだのか、当節の分断の季節にあって、今一度検証し直すのも悪くない。
  殺伐とした孤独な都市生活に疲弊を感じたところで、もはやムラ社会のおしきせはゴメン。色々御託を並べてみたところで、人間どうしの触れ合いなくして生きてゆけないのも、また人間の営為の道理だ。自然派ヒッピーはコミューンを作ったし、都会派パンクも結局は徒党を組んだ。みんな寂しいし疲れている。とどのつまり、知恵を総動員して色々やるしかないのだ。傷つけ合いながら、響き合いながら、うたは自由をめざす!  という名曲もあったではないか。人間は一人では生きてゆけないし、またこの社会、構造的にもそうはなっていないのだから。
  例えばインターネットを前にひねもす鎮座する単身生活が楽という考え方もあるが、人間間のせめぎ合いに苦闘しながらの共同生活が楽しいという考え方もある。後者のような、生活空間をシェアし合う設定の劇映画なら、イギリスの『キャリア・ガールズ』(1997年)、スペインの『スパニッシュ・アパートメント』(2003年)などがあるが、本作『エヴァとステファンとすてきな家族』は、より具体的に、素敵に、共同体でみられる雑多な精神の交叉を描いている。

  舞台は1975年のスウェーデン・ストックホルム。ヨーランの住む郊外の一軒家には、訳ありの男女、ヒッピー的思考の者達がコミューン「TILLSAMMANS(TOGETHER)」を作り、生活空間をシェアして暮らしている。
  フリー・ラヴがモットーでみんなのまとめ役ヨーラン。その恋人でセックスに奔放なレナ。離婚を契機にレズビアンに転向した瞑想家アンナ。アンナの元夫で攻撃的なラッセ。そのラッセに思いを寄せる料理好きの同性愛者クラウス。突飛で愚直な原理的共産主義者のエリック。アンナとラッセの一粒種テト、などなど。とにかく、変わり種が寄り集まって、かしましい日々を送っているのだ。
  11月20日早朝、スペインのフランコ将軍の死のニュースに湧き立つ中、ヨーランの姉エリザベートが、酒癖の極端に悪い夫と夫婦喧嘩の末、十三歳の娘エヴァと十歳の息子ステファンを引き連れ、「TILLSAMMANS」へ転がり込む。多感な年頃のエヴァとステファンには到底理解不能な、「変な大人達」との共同生活が幕を開けるのだ。
  いきなりエリザベートを誘うアンナ。食事中に革命の話をして、ラッセに笑われるエリック。エリックを慰める為、という理由で、恋人ヨーランの許可を貰いエリックとセックスをするレナ……。
  連日、政治や食、男女同権や資本経済について、喧々諤々意見をぶつけ合う大人達ではあるが、しかしまた、互いの異なる個性を尊重し認め合う大人達でもあった。
  エヴァは、隣の家に住むフリドリックと、メガネの度数が同じという共通点を見つけて友達になるも、フリドリックの母マルギットは隣家の「ヒッピー達」を快く思っていない。一方のステファンは、父ラルフに会いに行ったり、電話をかけたりするのだが、いつもすれ違い。
  テレビも肉食も玩具もクリスマス・プレゼントもない、一つ屋根の下の共同生活に戸惑いながらも、エヴァとステファンは、魅力溢れる個性的な大人達との交流の中、「一緒に生きる」ということの素晴らしさを実感しながら「TILLSAMMANS」での生活に次第に馴染んでゆくのであった……。

  人間が集まれば、そこに「普通」「標準」という物差しはない。あまたのオンリー・ワン達が、他人をおもんぱかりながらも、大胆に巧妙に好き勝手やるのだ。そこには衝突もあれば愛もある。人と人の繋がりの中で自由をめざすということの難しさと面白さ。本作の主題は、まさにそこにこそある。素敵で間抜けな登場人物達の、リズムの効いた粋な台詞の積み重ねもいい。
  雪景色の中のサッカー、という至福のラスト・シーンも、下手をすればあざとくなってしまうところ。しかし何よりも俳優達の表情が輝いているし、「共生」とは結局こういうことという確信が、監督のブレない演出にみなぎってあるのが良く分かる。本作の希有な魅力だ。
  個性と自信を取り戻す為に、人々は寄り集い、戯れ合いながら一つのサッカー・ボールを追い掛け回す。コミュニケーションに疲れながらも、その可能性を追い求め続ける。日なたに晒される人間模様。しかし孤独は怖い。触れ合うこと。求め合うこと。認め合うこと。とどのつまり、それが人生。タフなものなのだ。否でも応でも。
  ちなみに本作、本国スウェーデンで「三人に一人が観た」という程の大ヒット。世界の八十カ国で公開されている(しかし難は邦題のセンス。何とかならん?)。

  「可笑しくて、オリジナリティに溢れ、優しさに満ちている。その上、笑いと涙のバランスが見事に調和した奇跡的な作品だ! 」(ガーディアン誌)
  「魅力的なキャラクターとストーリーを作り出したルーカス・ムーディソン。若き巨匠の誕生だ」(リールヴューズ誌)