オンライン魂花時報WELCOME TO NAKAGAWA TAKASHI'S WORLD中川敬のシネマは自由をめざす!リスト > スーパーサイズ・ミー
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スーパーサイズ・ミー
  (2004年 アメリカ)
  監督: モーガン・スパーロック
  原題: SUPER SIZE ME
  主要舞台: アメリカ
    発売元:クロックワークス
販売元:レントラックジャパン

  マノエル・ド・オリヴェイラの『永遠(とわ)の語らい』(2003年)で描かれた、地中海を東方アラブ世界へと向かう母と娘の船旅は、そのまんま、西欧文明の時空を遡る旅でもあった。とすると、「ピースボート・地球一周の船旅」に途中乗船した我々ソウル・フラワーの今回の旅(2005年6月)は、『永遠(とわ)の語らい』の道行きを逆行する、「西欧文明の旅」であったとも言えるのではないか。ヨルダンのアンマン(ハッティン・パレスチナ難民キャンプで演奏!)、イスラエル国境(数分毎に発する地雷撤去の爆音・爆煙を横目に、死海で泳ぐ!)、『アラビアのロレンス』で知られるアカバ港、紅海、スエズ運河、エジプトのポートサイド、カイロ、地中海、ギリシャのアテネ、イタリアのシチリア島(高級リゾート気分のブルジョワジーを横目に、『グラン・ブルー』のイソラ・ベッラで泳ぐ!)……。それはまさしく、西欧中心史観の時空の流れを体感出来るゴージャスな旅なのであった。
  アラブ社会のまばゆいばかりの白砂と白壁の世界。モスクから聞こえ来る伸びやかなコーランの詠唱。悠久の歴史への誇りを感じさせるアラブ人達の余裕溢れる笑顔、立ち振る舞い……。そう、明らかに、西欧文化にドップリと浸かり切っている我々日本人からすると、そこには、りりしくも確固たる「もう一つの世界」があった。スターバックスやマクドナルドのない(あるのかも知れないが、俺は見かけなかった)、資本の論理よりも共同体の倫理がいまだ優位にある、威厳に満ちた世界だ。
  アラブ社会数日の滞在ののち、我々を乗せた船は、アフリカ大陸を背に地中海を西方へと向かう。そして辿り着いたのは、今やEUの街、ギリシャのアテネ。美しい石畳の路。どこか見慣れた町並み。オープン・カフェ(カフェニオン)。無関心に行き交う人々の表情。乱立する宣伝看板。整備された観光地……。ヨーロッパの片隅に到着し、えも言われぬ帰郷感みたいなものを感じてしまうのは、やはり日本人、日常の欧米文化による抜きがたい刷り込みがあるからか。「もう一つの世界」から遠路はるばる帰還したかのような、「居心地の良さ」がそこにはあったのだ。嗚呼、悲しき日本人……。アテネでは、嬉々としてショッピングに耽る我々の姿があったのであった(京都や奈良で喜ぶ西欧人とまるで一緒)。
  そして遂に、ギリシャでも出会わずに済んだマクドナルド社のロゴ・マークを目の当たりにしてしまったのがシチリアの港町、『揺れる大地』のカタニア。ああ、マクド発見。世界中何処へ行っても、しつこいぐらいにあるあの「M」のマーク。昔宣教師、今ドナルド。「帰って来てしまったのね」と、俺の脳裏の声が寂しくつぶやいた瞬間でもあった。
  俺の場合、ある理由(※)により、十年以上前から一切マクドナルドの商品は口にしていないのだが、やはり世界は欲しがっているのか、地球上いたるところにマクドナルドはある。当たり前の顔をして、ある。スターバックス、コカ・コーラ、マクドナルド、ネスレなどの企業の商品は、イスラエル支援企業(palestine-heiwa.org/choice/list.html)であるということだけでも、充分「不買」の理由になるが、まずもってこれらのファストフード、俺は「うまい」と思わないのだからしょうがない。どうしてあんなにまずいものが世界中で飛ぶように売れているのだ!
  マクドナルドの魅力。中毒性。この件に関しては、その筋の専門家、そう、アメリカ人にこそ御教示願いたい。

  という訳で、恐るべき人体実験ドキュメンタリー作品『スーパーサイズ・ミー』の登場だ(タイトルの直訳は「僕を巨大規模にしておくれ!」)。
  ある日、テレビ・ニュースを観ていた映像作家のモーガン・スパーロックは、「太ったのはハンバーガーのせい」とマクドナルド社を相手取り訴訟を起こした二人の肥満少女の報道に目を止めた。そしてその報道から「最高で最悪なアイデア」を思い付くのであった。それは「一ヶ月間ずっと、一日三食、ファストフード以外を食べない人体実験を記録する」というもの。しかも、その被験者は彼自身。この実験に選ばれたファストフード企業は我らがマクドナルド社だ。
  モーガンは言う。「本作は、肥満と健康問題、そしてファストフードの世界を巡る、ある男の旅である。アメリカのライフ・スタイルとその影響力(これからを担う子供達や、全世界にまで及ぶ)を探る調査だ」「そんなに栄養があってヘルシーならば三十日間食べ続けても身体に害はないだろうと思い、だったら食べてやろう!と閃いてしまったんだ」「毎日、マクドナルドで食事なんて、ガキの頃の夢がかなったみたいだ」
  四人に一人が毎日ファストフード店を訪れ、子供の半分、成人の60%以上(約一億人)が肥満、年間四十万人以上が肥満による糖尿病や心臓麻痺で死亡しているアメリカ。そして、この四分の一世紀の間に肥満の子供が一気に倍増し、恐るべきことに、2000年に生まれた子供の三人に一人が将来糖尿病になると考えられているという!
  自らの体を実験台にして、この人類史史上類をみない恐るべき政治的食文化状況に切り込むモーガン。無謀な自己人体実験と平行して、学校給食の裏側、食品業界の闇、企業の宣伝戦略、含有成分にみる中毒性、などが明らかにされてゆく。この一ヶ月にわたる「最高で最悪な」闘いの記録は、現代の麻薬=ファストフード文化を再考する最後のチャンスを我々に与えてくれているのだ。まさに体を張った決死の闘いだ(哀れなモーガン。実験結果は観てのお楽しみだ)。
  「この映画を作ったそもそもの目的は、これを観た方々に改めて食生活を見直してもらうことだったんだ。でも、それ以上の反応があり、親たちが子供や家族の食事に気をつけるようになったり、子供のお手本となるように自らの食べ物にも気を配るようになったり、学校給食を見直す動きが出てきたりと広がっていった。これはまったく予想外の大反響だったよ」(モーガン・スパーロック)
  さあ、大好きなファストフードを食べてから、この「最高で最悪な」本作を観よう。その一口がきっと「最後の晩餐」になること請け合い。
  解決の方法? 至って簡単。買わなければいいのだ!

  (※)環境破壊企業、動物虐待企業としてのマクドナルド社を1990年代初頭から糾弾し続けているイギリスのトラヴェラーズ・ロック・バンド「レヴェラーズ」。彼らと一緒にライヴをやった1993年のその「打ち上げ」の席で、俺は奇妙な約束を彼らと交わしたのであった。彼ら曰く「マクドナルドの商品を買うな!」。俺曰く「世界中でイギリス語をエスペラントのごとく当たり前のように使うな!」。そしてお互いの主張は守られるべく、固い約束が交わされたのであった。当然いまだ俺はその約束を守り続けている。