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トラベリング・ウィズ・ゲバラ
  (2004年 イタリア)
  監督: ジャンニ・ミナ
  原題: TRAVELING WITH CHE GUEVARA
  主要舞台: アルゼンチン
    *モーターサイクル・ダイアリーズ コレクターズ・エディションに収録
発売元:株式会社角川ヘラルド・ピクチャーズ
販売元:アミューズソフトエンターテインメント株式会社
商品番号:ASBY-5266
税込価格:¥4,935

  (『モーターサイクル・ダイアリーズ』の項からの続き)

  「人生よ、ありがとう。多くのものをくれた人生よ。人生は私に二つの瞳をくれた。目を開いた時、この瞳は白と黒とをはっきり見分ける。そして夜空に輝く星々を見る。人生よ、ありがとう。多くのものをくれた人生よ。疲れた私の足を励ましてくれた。この足で私は街を歩き、水たまりを歩いた。浜辺を、砂漠を、そして平原を歩いた」(アルベルト・グラナードお気に入りの曲、ビオレータ・パラの<人生よありがとう>)

  二十三歳の医学生エルネスト・ゲバラと親友アルベルト・グラナードの、八ヶ月に及ぶ、おんぼろバイクと徒歩で南米大陸を縦断するという無謀な旅は、のちに偉大な革命家となるチェ・ゲバラが著した『モーターサイクル南米旅行日記』によって、その全貌が世界中に知れ渡ることとなる。
  今や中南米の若者達にとって、この上ない青春のバイブルでもある『モーターサイクル南米旅行日記』は、誰からも愛されるチェ・ゲバラという革命家の足跡を綴ったものであるのと同時に、無鉄砲な青春期の熱狂とラテン・アメリカ深部との劇的な出会いを綴った雄大な叙事詩でもあった。
  ウォルター・サレス監督の傑作『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)は、基本的に原作の『モーターサイクル南米旅行日記』を忠実になぞってはいるものの、細かい描写やストーリーは原作にない表現も目立ってあった。しかし、本作『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』を観れば、その理由もすぐさま分かる。若きエルネストの旅のパートナー、もう一人の伝説の男アルベルト・グラナード(八十二歳)が、『モーターサイクル・ダイアリーズ』の撮影に同行し、出演者や撮影クルーに的確なアドヴァイスを与えていたのだ。「創作」かと思いきや、実は、より事実に沿った演出がなされているという訳である。
  半世紀を経て、同じ旅路を辿るアルベルトの「思い出への旅」。いわば本作『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』は、アルベルト本人と『モーターサイクル・ダイアリーズ』撮影チームの、「映画撮影現場の記録」に名を借りた、もう一つの『モーターサイクル南米旅行日記』なのだ。
  『モーターサイクル・ダイアリーズ』にあったように、真面目で実直なエルネストに対して、実際のアルベルトはやはりおおらかでお茶目な男だ。監督のウォルター・サレスや主役の二人、ガエル・ガルシア・ベルナル、ロドリゴ・デ・ラ・セルナらに、事実関係の確認などを求められ、懐かしそうに、バイクの置いた位置、野宿をした時の寝た位置などを語りながら、「別に映画が事実と全く一緒である必要はない。君は君自身の演技をすればいい。真似をする必要はない」とまさに的確な助言を与え、ユーモアを交えながら、場をすっかり和ませたりするのである。
  エルネストよりも数年歳上、政治的にも急進的で、酒も女もダンスも一枚上手のアルベルト。革命家チェ・ゲバラの人格形成に、自由奔放なアルベルトの精神が与えた影響もさぞや大きかったことだろう。そして何よりも、アルベルトがこの喘息持ちの医学生を旅に誘わなかったら、革命家チェ・ゲバラの存在はあり得なかったのだ。
  本作の冒頭、現在のアルベルトが、エルネストからの「最後の手紙」を読み上げるシーンがある。エルネスト最後の地、ボリビアへ発つ際の手紙だ。「アルベルト、何をお前に残そう。砂糖きびの事業を残すことにしよう。僕は、また旅に出る。銃弾に倒れない限り、僕の夢は果てしなく続く。戦いが終わったら、僕を訪ねて来い。待ってる」。二人の変わらない厚い友情や、エルネストの運命を感じさせる、胸を打つシーンだ。
  本作には、アルベルトや出演者、監督らの貴重な証言や、当時のラテン・アメリカのヒット・チューンなどが詰まっているが、アルベルトと撮影クルーが一緒に唄を歌う素敵なシーンがある。グッときたので歌詞を引こう。
  「私は故郷へ帰る。額にシワが出来た今。銀髪になった今。分かっているとも。人生は一吹きの風にすぎない。“五十年”なんて何でもない。熱を帯びた眼差しは影をさまよい、君を探し、その名を呼ぶ。私は生きる。甘い思い出にすがり。そして涙する」(<ボルベール(帰還)>)
  「私は夢ばかり見て生きてきた。世界を知りたかったんだ」とアルベルト。そう、すべては好奇心と情熱から始まった。さあ、旅へ出よう!

  「私は南米大陸を知りたくて、この旅を計画した。南米大陸とは何か。どんな大陸なのか。知りたかったんだ。ブッシュ大統領にとっては、重要でない大陸のようだがね。私は、南米は実に豊かな大陸だと思う。もっと広く認知されるべきだ。南米人には国を越えて似たところがある。この旅にはもう一つ興味深い点がある。エルネストとアルベルトが実行した旅を、その五十年後の2002年に再現したことだ。その結果、五十年前と同じ構造的問題と社会的不平等が存在する事実を知った」(ウォルター・サレス)
  
  なお、本作『トラベリング・ウィズ・ゲバラ』は、DVD『モーターサイクル・ダイアリーズ』の「コレクターズ・エディション版」に収録されており、この作品以外にも、ローレンス・エルマンが南米縦断の同じコースを辿るドキュメンタリー映画『チェ・ゲバラ〜モーターサイクル旅行記(TRACING CHE)』(DVD化されている)などもあるので、原作は当然のこととして、興味のある向きは是非どうぞ。