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キャリア・ガールズ
  (1997年 イギリス)
  監督: マイク・リー
  原題: CAREER GIRLS
  主要舞台: イングランド
    発売元:紀伊國屋書店
販売元:紀伊國屋書店
DVD:¥4,800
品番:KKDS-69

  カンヌのパルムドールを受賞し、世界的大ヒットになった味わい深い名品『秘密と嘘』(1996年)で、マイク・リーの名を知る人も多いかもしれない。旧作なら『ハイ・ホープス』(1988年)、最近では『人生は、時々晴れ』(2002年)と、イギリス社会の底辺群像をユーモラスに語る口調があまりに「ブラック」と受け取られるのか、ここ日本での評価は明らかに遅れをとっている。でも俺にはこのぐらいの「きつさ」が丁度いい。マイク・リーは、ケン・ローチと並ぶ、俺のお気に入り英国人監督なのである。
  本作『キャリア・ガールズ』は『秘密と嘘』と同時期に制作された、女の友情を描いた青春群像劇。さりげないストーリー構成から立ち上る人間臭い哀感が、連射されるブラックなユーモアと絡み合い、えも言われぬ幸福感を導き出す、そんなリー映画特有のほろ苦い「泣き笑い」が本作でも健在。そして何よりも主演のカトリン・カートリッジの演技がいいのだ。

  舞台はノース・ロンドン。六年振りに再会する親友二人の「キャリア・ガールズ」が青春を回顧しながら物語は進行する。
  エキセントリックで攻撃的な長身美女のハンナ(カトリン・カートリッジ)。喘息持ちで皮膚病を患っている泣き虫のアニー(リンダ・ステッドマン)。三十歳になった今、二人は各々の道を歩み、「抑制すること」を覚え、未婚のまま仕事に就いている(ハンナは文具会社のマネージング・スタッフ、アニーは田舎の会社の人事課で働いている)。勿論二人共、望んだ仕事に就いている訳ではない。
  回想される時代は八十年代後半(部屋にスミスのポスターがある)。同じ大学に通い、部屋をシェアする二人の好きなロック・バンドはキュアーだ。攻撃的な性格のハンナは、歯に衣着せぬ言葉や剥き出しのジョークで周囲を困惑させる。例えば、パンク・ファッションで皮膚病のアニーに対してもこんな調子で泣かせてしまうのだ。「チーズおろしとタンゴを踊った肌だね」
  ある日、似ても似つかないハンナとアニーに、キュアー以外の共通点があることが判明する。二人共、八歳の時に親が離婚しており、そこから独特な男性観が生まれたことだ。しかし、アニーは「八歳から泣き通し」で、ハンナは「九歳から泣いたことがない」のであった(加えてハンナの毋はアル中だ)。
  その頃、ルームメイトの間で流行ったのがエミリ・ブロンテの小説『嵐が丘』を使った「願かけ」。「ミズ・ブロンテ」と念じて願をかければ、『嵐が丘』のページから答えが返ってくるというたわいもないお遊びだ。勿論みんなの興味は「いい男」と「セックス」。青春真っ只中の女の子達は、日々、ロックと男と不安に揺れるのである。
  二人の、青春を通り過ぎた男友達が回想される。人の目を見て喋れない肥満男リッキー。ハンナ、アニーのどちらとも寝るスケコマシ男エイドリアン。
  そして現在。(ハンナの)新居探しに出たハンナとアニーは、偶然にも「過去の男達」に再会する。相変わらずいやな男として登場するエイドリアン。祖母の死のショックをきっかけに、精神障害を患い、好きだったアニーに悪態をつくリッキー……。
  キングス・クロス駅のホーム。ハンナは、アニーにあの頃のボロボロになった『嵐が丘』を渡し、笑顔で立ち去るのだ。

  一見正反対の性格の二人だが、劇中、ハンナがアニーに「私達は二人を合わせると完璧ね」と言う場面がある。実はタフなハンナが繊細で、内気なアニーがタフで現実的なのではないか、と思わせる人間観察眼にこそ、マイク・リーの真骨頂はあるのだ。鏡のようにお互いを映し出す二人。マイク・リー流儀(「即興」「脚本なし」)ならではの、役者の能動性が問われる作劇術が、本作の生き生きとした人間模様を産み出しているのである。例えば、主演の二人は、映画に登場しない役柄の過去にまで遡って役作りをしたそうだ。自己防衛の為に攻撃的になるハンナの、内奥に秘めたる優しさ。心細さ。素晴らしい描写だ。
  映画を観ながら「そういやアイツは今どうしてるんやろ」と青春の思い出に浸るのもたまにはいいだろう。不安と希望に満ち溢れていた「あの頃」。俺に、ロックに附随する「悪さ」を教えてくれた十代の頃の親友が最近急死し、「振り返ることの重要性」について考えていたところだったのだ(十年程会ってなかったんよ)。
  なお、ハンナを見事に演じたカトリン・カートリッジ。『奇跡の海』の姉役、『ビフォア・ザ・レイン』の彼女役、『ノー・マンズ・ランド』のジャーナリスト役などでも名演を見せてくれたが、2002年9月、四十一歳の若さで亡くなっていた。残念!合掌!

  「キャリア・ガールズ。すなわち女達の踏んできた今までの人生。最近これほど“女”を見せた名作はなく、このイギリス映画の底力にはほとほと感心しきってしまう。そしてここに見つめたキャリア(彼女達の歩んできた道)の、わびしさ、悲しさ、そして憎さ!  これはまさに“女”が両手両足でつかみ抱きしめてくれるがごとき、あきれるばかりの“女の映画”」(淀川長治)