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フォッグ・オブ・ウォー
  (2003年 アメリカ)
  監督: エロール・モリス
  原題: THE FOG OF WAR
  主要舞台: アメリカ
    『フォッグ・オブ・ウォー〜マクナマラ元米国防長官の告白』
¥3,990(税込)
発売・販売:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

  副題に「マクナマラ元米国防長官の告白」とあるこのドキュメンタリー映画は、その名もズバリ、ベトナム戦争時の米国防長官ロバート・S・マクナマラのインタヴューと豊富なフッテージを元にした、衝撃の告白集(宣伝文句)である。とはいえ、もはやアメリカ合州国という史上最悪な帝国主義国家の内実を知る者にとって、新たな資料にはなり得ても「衝撃の告白」は言い過ぎだろう。大統領選のあった昨年(2004年)、本作が『華氏911』と並びアメリカ国内で衝撃的話題作になり得たのも、「あのマクナマラが平和主義者になって、ここまで喋っている!」という驚きがまずもって人々にあったからだ。
  ハーバード大学院卒、太平洋戦争従軍、フォード自動車会社社長、ケネディとジョンソン政権下で国防長官、レーガン政権アドバイザー、そして世界銀行総裁。今年八十八歳、第一次大戦真っ只中の1916年に生まれた、政界・経済界を牛耳ったこのスーパー・エリートがここまで赤裸々に戦争の内幕を語るということは、確かにある意味「戦争の世紀」を総括することでもある。しかしそうではあるが、その口調が「侵略される側」のアジア人の目で観ると、ちょいと微妙なのだ。
  国防長官時代の自己過失を認めはするが、時に質問の文脈をはずれ、お茶を濁し、はぐらかす。ぶれないカメラは、実直で剛毅なその姿と責任逃れする戦争犯罪人としての姿の両面を、真正面からぶった切るように映し出している。
  「私は生涯を通じて戦争の一部だった」「私も八十五歳だ。人生を振り返り、幾つかの結論を出してもいい頃だろう」「人は何度でも同じ過ちを犯す。三度ミスをすれば四度目には避けられるかもしれないが、核の時代にはその論理は通用しない」「人類は殺戮や紛争についてもっと真剣に考えなければならない。21世紀にも、同じことを繰り返したいのか?」「(日本に)勝ったから許されるのか?  私もルメイも戦争犯罪を行ったんだ」「私は自分の成したことに誇りを持っているが、犯した過ちを悔いている」などなど……、彼のはえばえしい経歴からすれば、確かにここに引き出された告白の数々は貴重なものなのかもしれない。
  そして、数々のレアなフッテージとともに語られるのは、「東京大空襲」「原爆投下」「キューバ危機」、そして自ら深く関わった「ベトナム戦争」である。彼を任命したケネディ大統領とのやりとり、ジョンソン大統領との対立あたりは、アメリカ史好きにはたまらない暴露話だろう。
  しかし、である。いくら反省と悔悛を伴った暴露話が続いても、ここにあるのはやはり「殺す側」の視点でしかない。空爆される無数のミサイルの下にあまたあった難死への、想像力を決定的に欠いたその語り口調は、地獄絵図の戦火の現実に目を塞ぐものだ。ベトナム戦争での枯れ葉爆弾使用の責任所在へのはぐらかしなど、許しがたい場面も本作にはある。
  ただ、彼が本作に残した幾つかの「教訓」の中には興味深いものもある。「敵の身になって考えよ」「理性は助けにならない」「戦争にも目的と手段の“釣り合い”が必要だ」「目に見えた事実が正しいとは限らない」「人は善をなさんとして悪をなす」などなど……。「では、辞任(1968年)後、なぜベトナム戦争反対を唱えなかったのですか?」との質問に答えることの出来ないマクナマラのクローズ・アップが印象的だ。
  ベトナム戦争時、逆の立場にいた監督のエロール・モリス(ベトナム反戦デモに度々参加)は、結局、マクナマラの口から「謝罪」を引き出すことには成功しなかったが、過ちに混濁する老戦争犯罪人の姿を克明に捉えることには成功している。「戦争を引き起こすのもまた人間である」という、浮かび上がるやるせなさこそが本作のもつ真骨頂なのだ。
  何と言っても、マクナマラの評価うんぬん以前に、モリス監督の問題提起として本作は重要だ。『911ボーイングを捜せ』『アトミック・カフェ』『チョムスキー9・11』『テロリストは誰?』『ボウリング・フォー・コロンバイン』『華氏911』などとともに、現代のバビロン、アメリカ合州国を認識する上で重要な手掛かりとなるドキュメンタリーであることは勿論、自省と開き直りに揺れる一老エリートの人間ドキュメンタリーとして観ることも可能な作品である。必見。

  「我々の多くは“戦争の倫理的な話題や問題点は、道徳的に不明瞭であるはずがない”と信じている。その不明瞭さにマクナマラが言及してゆくのは、非常なインパクトがある。彼が話していることは、多くが今現在起こっている事柄と関連している。問題は何も変わっていない。そこにはシュールな感覚、我々が過去から何も学んでいないという感覚が生まれる。つまり本作では、四十年、五十年、六十年と、時が経つにつれ過去となってしまう歴史的出来事、しかも実は“現在”と繋がっている出来事について、映画を作ることが可能だと証明出来たと思う。そのことが私には嬉しい」「本作が提示する問題とは“我々は過去の過ちを繰り返す運命にあるのか?”である。ウッドロウ・ウィルソン大統領は間違っていた。戦争は戦争を終わらせはしない。解決されない争いを残すだけ。既に存在する未解決の争いを助長するだけだ。戦争は次なる戦争を導くだけである」(エロール・モリス監督)