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夜を賭けて
  (2002年 日本=韓国)
  監督: 金守珍
  英題: THROUGH THE NIGHT
  主要舞台: 日本
    「夜を賭けて」 www.artone.co.jp/yorukake/
DVD発売中 ¥5,460(税込)
発売元:アートン
販売元:東映ビデオ

  梁石日(ヤン・ソギル)の小説はそのどれもに彼自身の実体験が投影されているが、とりわけこの『夜を賭けて』(と『血と骨』)は、在日二世世代の生きざまが凝縮された、いわば梁さん達、在日コリアン戦後世代の「自伝」ともいえる重要作だ。

  体制がスポイルした戦後日本の闇。国家の狭間で呻吟しながら生き抜く、泣き笑いの人生。開高健が『日本三文オペラ』で、小松左京が『日本アパッチ族』で描いた「猪飼野アパッチ族」の世界を、当事者、在日コリアン側の視点で描いた本作は、ある意味優れたルポルタージュのようでもあり、戦後日本社会の虚飾を引っ剥がす強力な記憶装置でもある。
  そして、例えばアンジェイ・ワイダの『地下水道』(1956年)のように、多分に「書かずにはいられなかった鎮魂歌」でもあったのだ。本作での梁さんの筆致が活き活きとしているのは、そこに彼の「青春」があるからに他ならない。
  実話でもある本作の舞台は1958年の大阪猪飼野(現生野)。戦前から多くの朝鮮人が暮らす集落である。
  貧困にある彼ら在日コリアン達は、食う為に、大阪大空襲で破壊された大阪造兵廠跡の廃墟に埋まっている鉄屑を掘り起こし、それをこっそりと売り払うという行為を始める。彼ら、真夜中の盗賊達は、自称「アパッチ族」と名乗り、朝鮮人差別の色濃く残る当時の日本社会を震撼させるのだ。残骸を国家財産とみなす警察は当然それを阻止する為、両者の間に壮絶な攻防が始まるのである。
  友情、家族愛、そして喧嘩に明け暮れる破天荒な青春群像が、権力との苛酷な、しかしどこか間抜けな闘いの中で、苛烈に描き出されてゆくのだ(原作は必読!  よって「あらすじ」は省く)。

  熱中して読んだ小説(原作)が映画化されると、失望させられるということがままあるが、この映画版『夜を賭けて』も残念ながらその例外ではない(大村収容所を描いた重要な後半が、映画ではゴッソリと省かれている。これは絶対に「続編」が必要だ)。発表当時、立て続けに三度も読んで、また詞曲まで作ってしまった(<日食の街>)俺のような人間には、ズバリ、映画版『夜を賭けて』の演出はくど過ぎるのだ。それが狙いであったにせよ、あまりに演技が過剰なのだ(その辺の理由は監督の金守珍氏も語っているが、俺は納得出来ない。ゴメンね。www.artone.co.jp/yorukake/interview.html)。

  しかしそれでも、夥しい数の「日本映画」のゴミを思うと、本作はやはり必見だ。原作とセットで押さえておくべき作品である。映画全編から滲む、あまたの魂に向き合おうとする情熱は間違いなくホンモノであるし、挿入された朴保(パク・ポー)の唄もいい。
  随分前に「ワン・コリア・フェスティバル」の打ち上げのどさくさの中で、梁さんと対席したことがあった。中川「梁さん。『夜を賭けて』映画化の話、ないのん?」。梁「あれは無理やろう。ロケーションが難しいな」。中川「映画化のあかつきには映画音楽やらしてね」。梁「……(苦笑)」。みたいな会話を交わしたことがある。その時期に書いたのが<日食の街>である(1998年、ソウルシャリスト・エスケイプのアルバム『ロスト・ホームランド』に収録)。

  黒ずんだ風  日食の街  活カのない古いシミのような会話
  茜色した路地の片すみ  夕闇だけがきつい一日を愛撫する
  泥にまみれて  運河を見つめ  頭痛の中を甘い耳鳴りがへばりつく
  反復の叫び  静寂が責める  つらい記憶を遠い山鳴りが愛撫する

  祈りは渦を巻き  ひとすじになる
  雲の切れ目見つけ  空へ向かう

  青白い夢  日食の街  ぬめった風と厚い雲の下で生きる
  生産の街  生きるための宴  夕闇だけがきつい一日を愛撫する

  腫瘍のような  日常の残がい  癇癪起こす古い記憶のムチがしなる
  這いつくぱった  影のような希望  苦い笑いと甘い耳鳴りがへぱりつく

  祈りは渦を巻き  ひとすじになる
  雲の切れ目見つけ  空へ向かう

  青白い夢  日食の街  ぬめった風と厚い雲の下で生きる
  生産の街  生きるための宴  夕闇だけがきつい一日を愛撫する
  夕闇だけがきつい一日を愛撫する
  夕闇だけがきつい一日を愛撫する

  (<日食の街>中川敬作詞作曲)