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私の小さな楽園
  (2000年 ブラジル)
  監督: アルドルーシャ・ワディントン
  原題: EU TU ELES
(ME YOU THEM)
  主要舞台: ブラジル
    「私の小さな楽園」
DVD発売中:¥4,935(税込)
発売元:ジェネオン エンタテインメント

  ブラジルの荒涼な剥き出しの大地。どこまでも青々と広がる空。フェルナンド・メイレレス監督の『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)で描かれたリオ・スラムの殺伐とは対極にある本作の舞台、ブラジル北東部ノルデスチは、人々が旱魃に苦しむ、極端に降雨が少ない乾燥地帯である。そんな厳しい自然環境を舞台に、女主人公ダルレーニのおおらかな積極思考が希有な物語を産み出した。
  「男性優位社会であるこの国(ブラジル)で、“夫と二人の愛人と一つ屋根の下で十年間も一緒に仲良く暮した女性”の話をテレビで観て、興味を覚え映画化したんだ」  (アンドルーシャ・ワディントン)
  一人の女に、彼女を愛する四人(最終的に)の男。生活能力もあれば、人生を楽しむ術も知っている女ダルレーニと性格のバラバラな男四人が、一つ屋根の下、絶妙な距離を保ちながら共同生活する。決してべっぴんさんとは言いがたいダルレーニ(だからいい!)だが、彼女の持つ逞しい得もいわれぬ魅力に男達は次々とノックアウトされてゆくのだ。
  ブラジル社会を覆うマチスモ(男性優位思想)をものともせず、正にイスラム社会の一夫多妻の逆をゆく、ダルレーニの痛快な実話。ジルベルト・ジルの軽快な音楽に乗せて、この「フェミニズム映画」は、男達のありようの本質にも迫る。男達は家と飯と肉体を捧げ、女は愛を捧げる。あぶり出されてゆく人間の性(さが)のアザーサイドに、観る者の「当り前」が粉砕されてゆく心地よさがここにはある。いまだ日本にもあまた棲息する家父長野郎には、決して理解出来ない映画だろう。
  タイトルの「EU TU ELES」は、ポルトガル語で「私・あなた・彼ら」。

  舞台はブラジル北東部ノルデスチの土埃舞う乾き切った寒村バイーア。結婚式に現われない新郎を背に、妊婦のダルレーニは、馬車で都会へと旅立つ。
  三年の月日が流れ、男の子を抱いたダルレーニが村へ戻って来る。彼女は、初老の頑固者オジアスから「家を提供するから結婚しよう」と持ちかけられ、あっさりと結婚するのであった。蓋を開けてみれば、指図するだけで全く働かないオジアス。家事も仕事も女まかせのグータラ亭主は、日がな一日、ハンモックの上でラジオを聞いている家父長野郎だったのだ。
  ダルレーニは、朝6時から夕方5時までさとうきび畑で太陽に灼かれる重労働。家へ戻ると家事と夫のお相手が待っている。しかし、元来楽天的な気性の彼女。鼻唄を歌いながら家事をこなし、夜にはちゃんとパブで踊ってたりする。大地のおおらかさに太陽の明るさを合わせ持ったダルレーニ。笑顔がいい。
  そしてダルレーニの天真爛漫な「逆襲」が始まる。オジアスとの間に生まれたはずの子供が何故か黒人。同居することになったオジアスの義理の従兄弟、セジーニョの優しさに惹かれ情交。またもや妊娠し、当然パパはセジーニョ。フェミニストのゼジーニョは、ダルレーニに変わって家事をこなし、彼女の働くさとうきび畑まで毎日嬉しそうに弁当を運ぶような男で、オジアスからいつも馬鹿にされながら、秘かにダルレーニとの愛を育むのであった。
  しかしそれだけでは終わらない。次に登場するのは若い色気を発散させる美男のシロ。季節労働者の彼を同居させたのが運のつきだ。不安通りセジーニョは、いつも通り弁当を届けた折に、さとうきび畑の茂みでシロとセックスするダルレーニを見てしまうのであった。そしてまたもや父親の違う息子の誕生だ。
  男達による、錯綜する嫉妬と牽制を尻目に、一家の稼ぎ手のダルレーニは、男達、息子達を平等に愛しながら、暢気に逞しく生きてゆくのであった。

  娼婦なのか天使なのか。はたまた宿命の女なのかビッチなのか。勿論どれもはずれている。何故ならダルレーニを必要としているのは男達の方だからだ。打算などこれっぽっちもないダルレーニの愛のカタチに、実は男達の方が「楽園」を見い出したのだ。
  人間誰しも、自己の欠落した部分を他者に補完してもらうことによって生きることが出来る。絶妙な四人のバランスが生んだ相互扶助に因襲もクソもない。結局、ダルレーニがいい女なのだ。
  この自由をゆく情熱の女ダルレーニを演じたヘジーナ・カセー。彼女の好演なしでは、本作の説得性もなかっただろう。
  今や世界第十位の経済規模を誇るブラジルは、また世界一激しい所得差、貧富の差でも知られる。対極にある、『シティ・オブ・ゴッド』の苛烈な暴力とドラッグのブラジルと、本作『私の小さな楽園』の燦々と降り注ぐ太陽のブラジル。めまいを覚えるこの落差があぶり出すのは、しかし、まばゆいばかりの生の充溢だ。「死ぬまで生きる」者達の人間讃歌がブラジル映画の魅力なのである。