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スパニッシュ・アパートメント
  (2003年 フランス=スペイン)
  監督: セドリック・クラピッシュ
  原題: L' AUBERGE ESPAGNOLE
(EURO PUDDING)
  主要舞台: スペイン
    スパニッシュ・アパートメント
DVD発売中
価格 ¥3,980(税込¥4,179)
品番 FXBA-24892
発売元 20世紀FOX

  2004年5月1日、拡大 EU(欧州連合)は、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニアなどの旧東欧五か国、エストニア、ラトビア、リトアニアの旧ソ連三か国、そして地中海に浮かぶキプロス、マルタの計十か国を加え、遂に二十五か国の連合体制となった。あらゆる山積する問題を抱え楽観視出来ないながらも、少なくとも、先の二つの大戦を経たヨーロッパの平和に対する想いの強さは、新体制 EUを作らんとするそのパワフルなエネルギーに現れているとはいえる。統一通貨「ユーロ」の流通にしても、従来のような、ヨーロッパ各国が自国通貨を増発することによる戦費調達は不可能になるので、ユーロの市場流通自体が戦争抑止力となり得る部分もあるのである。「 EU統合の根幹の理由は、平和の為だということを忘れてはならない」(欧州委員会・プロティ委員長)
  EUを取り巻く経済のお話はその分野の卓見に譲るとして、やはり興味をそそるのは、人・文化の共生に絡んでの話である。「議論好きなフランス人」「楽観的なイタリア人」「几帳面なドイツ人」「自己中心的なイギリス人」「情熱的で信仰に篤いスペイン人」などなど……、それぞれのステレオタイプ化されたイメージ一つとっても、ヨーロッパの多様性を十二分に感じ取ることが出来る。EUは壮大な実験ではあるが、アジア人にとって注視すべき実験でもある。権力を持つ者達がいくら抵抗しようとも、人類という種の未来自体が危うい以上、国家は解体せざるを得ないのだから。人や文化のグローバリズム、そして真の共生を考えることは、定向進化の真っ只中、人類の大命題なのである。

  人も文化も出会わざるを得ない。例えば本作『スパニッシュ・アパートメント』にも登場する、欧州委員会によって1987年に開始されたヨーロッパの交換留学生制度、エラスムス計画。これはヨーロッパの大学の結束と人物交流を促進する制度で、なんと現在、100万人以上の学生がこの計画に参加しているという(エラスムスは16世紀の人文学者。ルネサンス期、政界や教会の権力を批判した先駆的思想家だ)。
  異なる価値観のぶつかりあい。せめぎあい。本作でセドリック・クラピッシュ(『百貨店大百科』『猫は行方不明』『家族の気分』)は、持ち前のユーモア・センスを武器に、スペイン・バルセロナの一つ屋根の下で寝食を共にする交換留学生達の青春を、爽やかに、スピーディーに描く。どいつもこいつも個性的だけど憎めないキャラクターばかり。本作に於いてもクラピッシュの積極的人生観は全開だ。
  本作の原題は、直訳すれば「スペインの宿」、フランス語のスラングで「ごちゃまぜ」「混乱」という意味である。

  舞台はパリとバルセロナ。
  パリで暮らす二十五歳のグザヴィエ(『ガッジョ・ディーロ』のロマン・デュリス)は経済専攻の大学生。かつては作家に憧れていたグザヴィエも卒業を控え就職活動だ。父の友人で官僚のぺラン氏の、「スペイン語とスペイン経済を勉強しなさい」との助言に従い、グザヴィエはスペイン・バルセロナへの留学を決意する。早速、欧州交換留学プログラム「エラスムス計画」に登録するグザヴィエであった。
  出発の日。すすり泣く恋人マルティーヌ(『アメリ』で人気爆発のオドレイ・トトゥ)と母の前でカッコをつけてみたグザヴィエであったが、ゲートをくぐり一人になった瞬間、メソメソしだす、そんな男である。
  バルセロナ。空港で知り合った新婚カップルの部屋に数日間居候した挙げ句、やっとのことで見つけた部屋は、ヨーロッパ各国からやって来た五人の若者達が家賃を浮かす為にシェアするアパートの一室だ。イタリア人のアレッサンドロ。ドイツ人のトビアス。デンマーク人のラース。英国人のウェンディ。スペイン人のソレダ。五人による「面接」にパスしたグザヴィエは、やっとのことでヨーロッパの縮図のような自分の城を見つけるのであった(途中でベルギー人でレズビアンのイザベルが加わり計七人に)。
  こうして始まった一年間の期間限定国際交流。しかし、価値観の違いや若さはあらゆる混乱とトラブルを呼び込む。冷蔵庫内のテリトリー。風呂場の掃除の仕方。セックス問題。酒。喧嘩……。パリに残してきた恋人マルティーヌとの関係も、グザヴィエの優柔不断な性格により崩壊寸前。空港で知り合った新婚カップルの人妻アンヌ・ソフィとの不倫に励むグザヴィエであった。
  最高に笑えるのが、ウェンディの浮気がバレないように全員がバルセロナの街を走り回るシーン。ウェンディがアメリカ人のミュージシャンを部屋に連れ込み「お楽しみ」の、まさにその時、イギリスから遠路はるばる彼氏がやって来るのだ。一致団結、協力し合う欧州連合ここにあり、だ。

  物語は、若者達のモラトリアム期特有の混乱と EUが抱える混乱を重ね合わせながら、抱腹絶倒のクラピッシュ節で進行してゆく。詰め込み過ぎの感もあるエピソードの乱射も、「ごちゃまぜ」をテーマにした本作をより魅力的にし、混乱する「国際交流」の宴を見事に際立たせてみせるのだ。そう、国家さえ邪魔をしなければ、我々は「交われる」のだ。
  一年間のスペイン留学を終えたグザヴィエが、役所へのコネ就職に疑問を感じ、「幼い頃の自分を失望させたくない」とパソコンの原稿に向かうラストシーン。青春の混乱が「夢」に軍配を上げる、最高の離陸シーンである。「混乱」は積極的に楽しむべきなのだ。
  ちなみに、ガウディ建築と青空のバルセロナに恋した人は、スーザン・シーデルマン監督の『ガウディ・アフタヌーン』(2000年)もお勧め。

  「バルセロナの多様性に恋してしまったのさ。とても古い街なのに、同時に極めて現代的でもある。また、国際的であると同時に、強烈なカタロニアのアイデンティティを備えている」(クラピッシュ)