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ポーリーヌ
  (2001年 ベルギー=フランス)
  監督: リーフェン・デブローワー
  原題: PAULINE & PAULETTE
  主要舞台: ベルギー
    発売/販売:日活株式会社
品番:DVF-83
価格:¥3,990(税込)
発売中

  ベルギーといえば、ダウン症の青年を描いたジャコ・ヴァン・ドルマル『八日目』、ダルデンヌ兄弟『ロゼッタ』『息子のまなざし』などなど、底辺群像を描いた人間ドラマの数々が思い起こされるが、ここにまた、心を打つ感動の名作ドラマが登場した。
  『ポーリーヌ』。主役がおばあちゃん。知的障害。ヨーロッパの片田舎。75分。お花畑……。しかも主役のドラ・ファン・デル・フルーンが、『アントニア』(1995年)の晩年のアントニア役ときてるではないか。これはもう観ない訳にはいかない!
  で、やっぱりいい。最近観た『夕映えの道』(2001年)同様、一切若者が出て来ない映画なのだが、至福の映画時間を提供してくれる素晴らしい作品なのであった(俺が保証する。観なさい!)。

  舞台はベルギー、フランドルの田舎町ロクリスティ。姉マルタと同居する六十六歳のポーリーヌは、知的障害を持っているので、読み書きは勿論、自分の靴紐を結ぶことも出来ない。しかしポーリーヌは、姉マルタの献身的な世話を受けながら、愛するもの……庭の花の水やり、チョコレートのタルティン(食パン)、妹ポーレットの洋服屋……などに囲まれ、幸せに暮らしている。

  ポーレットの店は、ピンクや赤といった明るい暖色に溢れていて、ポーリーヌを幸せにする。そして何よりも、地元のオペラ歌手でもある華やかなポーレットの存在。ポーリーヌは、ポーレットを取り巻くすべての華やかさが大好きなのだ。ポーレットは仕事の邪魔になるからとポーリーヌの来店を嫌がるが、ついついポーリーヌは、ポーレットの店へゆき、大好きな赤いバラの包装紙の端切れを貰うのであった。
  そんなある日、ポーリーヌの世話をしていた姉マルタが突然急死してしまう。マルタは、ポーリーヌ、ポレット、そして末妹セシールへの遺言に「ポーリーヌと同居し世話をするのであれば、遺産は三等分して相続出来る」と残しており、ポーリーヌを施設に預けるつもりだったポーレットとセシールは、友人達と喧々諤々。結果、ポーレットが渋々引き取ることにし、ポーリーヌは大喜びである。
  しかし、ポーレットは天真爛漫なポーリーヌの行動に生活を振り回され、苛立ちの募る毎日。そしてポーレットのオペラ公演日、楽屋で靴紐がほどけているのに気付いたポーリーヌがポーレットの本番舞台へ上がってしまうのだ。突然のポーリーヌの出現に観客は大爆笑。遂にポーレットは、我慢の限界を越え、ブリュッセルで恋人アルベールと暮らす末妹セシールに、強引にポーリーヌを預けてしまうのであった。
  末妹セシールは、優しくポーリーヌを迎え入れるものの、なにぶん狭いアパート暮しの都会生活。同棲中の恋人アルベールは、二人だけの生活を乱され、不機嫌になってしまう。敏感にそれを察知したポーリーヌは、家出し、ポーレットの許へ戻ってゆくのであった。
  オペラ歌手を引退して海辺のリゾート地の生活を計画していたポーレットは、突然のポーリーヌの帰宅にビックリ。結局ポーレットは、遺産相続を放棄し、ポーリーヌを施設へ預けてしまう。
  念願の生活を手に入れたポーレット。美しい海辺の町オステンド。しかし何かが足りない。ポーリーヌの天真爛漫な笑顔だ。部屋にはポーリーヌが施設で描いた誕生日プレゼントの花の絵がある……。
  結局ポーレットは、ポーリーヌを迎えに、施設へと向かうのであった。

  ベルギーを代表する名女優ドラ・ファン・デル・フルーンのポーリーヌは、それが演技であることを完全に忘れさせてくれる。チャイコフスキーの<花のワルツ>にのせて、ポーリーヌが花に水やりをするシークェンスの美しさ。今の今まで<花のワルツ>がこんなにいい曲だとは知らなかった。
  1969年生まれのデブローワー監督は、驚くべきことに本作が長篇処女作。リアリズムに徹しながらも、どこか幻想的で、決してユーモアも忘れない筆致は、あるべき名作映画のすべての基準を満たしている(しかも「絵」がかわいい!)。
  実際に施設でボランティア活動を体験したデブローワーは、障害者、健常者問わず、人間一人一人の持つ細かな感情の機微を見逃さない。本当に作りたい作品を作っているということが手に取るように分かるのだ。愛の深さ故の感動がここにはある。
  しかし健常者の観客は、「癒し」と「感動」だけを求めて本作を観ると、手痛いしっぺ返しに遭うだろう。何故なら物語に登場する近隣の健常者達がことごとく冷たく映るのだ。「悪意なき」健常者中心の社会がそこにはある。
  デブローワーは、至福のエンターテイメントの中で、さりげなく知的障害者の置かれている厳しい現状を観る者に提示し、一考することを勧めてもいるのだ。そう、ポーリーヌは周囲の「困惑」に気付いているのである。
  「知的障害の人々に接すると、学ぶべき点が非常に沢山あります。人生の見方が変わることがあります。この人達の微妙で小さなやり方に、私達は驚かされます。だからこそ、私はこの作品が非常に人の心を動かすと信じているのです」(デブローワー)

  「ベルギーからやってきた『ポーリーヌ』ほど心優しい物語はない。ドラ・ファン・デル・フルーンはポーリーヌ役として深く感情的で立ち入った演技を披露している。アン・ペーテルセンはポーレットを素晴らしく表現している。二人は日常的な物語に感情の共鳴を吹き込んだ」(ニューヨーク・ポスト)