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軍隊をすてた国
  (2004年 日本=コスタリカ)
  監督: 山本洋子
  スペイン題: PAIS QUE DEJO EL EJERCITE
  主要舞台: コスタリカ

  一、日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
  二、前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない

  御存じの通り、日本国憲法の第二章第九条にはこの国の武力放棄の姿勢がハッキリと書かれている訳だが、長年この国では、国会を任せられている者達が率先して法律を無視するという、信じがたい状況が進行している。
  警察予備隊発足(1950年)、日米安全保障条約調印(1951年)、警察予備隊を保安隊に改組(1953年)、自衛隊発足(1954年)、PKO協力法成立(1992年)、日米安保共同宣言(1996年)、日米新ガイドライン関連法成立(1999年)、衆参両院に憲法調査会設置(2000年)、テロ対策特別措置法成立(2001年)、初の海外派兵!(2001年)、個人情報保護法(メディア規制法)成立(2003年)、有事関連法成立(2003年)、……とまあ書き出せばきりがない、日本国憲法公布(1946年)以来、憲法違反のオンパレードなのである。
  無理矢理「現実」を変えてきておいて、憲法九条は「現実」にそぐわない、などとほざく改憲派のバカども。「アメリカに押し付けられた憲法」という物言いも、戦後アメリカ政府の傲慢この上ない極東政策をみれば、破綻した論理であることは明白だ。
  「(世界中の憲法を参考に)アメリカの憲法よりずっと良いものにした。自分のものより良いものを普通“押し付けた”とは言わないでしょう。19世紀の頃から日本の進歩的な女性や男性は人権を凄く大切にしていて運動も起こっていた。だから当時の日本人は新憲法を凄く歓迎した」(ベアテ・シロタ・ゴードン/元GHQ職員・日本国憲法草案者)
  この国の国会には最早、世界が見えない「お坊っちゃん」しかいないようだ。人類という「種」自体の未来が危うい当節、「勝者」などいない人類社会の未来に「軍備」もクソもないではないか(巨大な軍事防衛力の無意味性は、あの「9・11」が証明している)。
  世紀変われど、世界の至るところに阿鼻叫喚の地獄図は広がり続けている。まさに日本は憲法九条の理念をこそ、堂々と世界に輸出するべきなのだ。

  地球上にはこの日本以外にもう一つ、軍隊不保持を憲法に明文化している国がある。なんとあの内戦続きの中米にある、四国と九州を合わせたぐらいの小国、コスタリカ共和国である(人口約380万人)。
  1949年に公布されたコスタリカ憲法の第十二条にはこうある(要約)。
  一、恒久的組織としての軍隊を禁止する
  一、国内治安維持組織として警察力を保有する
  一、大陸協定(米州機構、米州相互援助条約)、または国防の為に、軍事力を組織出来る
  この半世紀の間、何度も改定されてきたコスタリカ憲法だが、この第十二条だけは制定以来不変なのである(三つ目の条項を見る限りに於いて、日本国憲法の方が「平和憲法」として、規範レベルではより徹底している。しかし周知の通り、巨大な軍隊を持ち、アメリカの言われるがままに海外派兵までしているのは日本の方だ)。軍隊を持たないことが最も効果的な防衛だ、ということを実践している国、コスタリカとは一体どんな国なのだろう……。

  本作『軍隊をすてた国』は、軍隊を廃止して半世紀が経つコスタリカの、軍事力を必要としない人々の営みを紹介するドキュメンタリーだ。1995年の沖縄県民総決起大会で高校生代表として演説したあの仲村清子による琉球舞踊が、狂言回しとして随所に挿入され、東アジアの沖縄と中米コスタリカを、寡黙に対比させる試みも行なっている。
  サンホセ郊外の市場に集まるコスタリカの庶民。祭りのような選挙。学校教育。警察官。手工芸。コーヒー農園。ニカラグアとの国境……。映像はあますところなくコスタリカ市民の暮らしぶりを伝えてくれる。人々は一様に「軍隊なんて無駄でっせ。いりまへん!」とキッパリ言い放ち、子供達も言い淀むことなく国政への意見を述べる。軍事費の浮いた分を教育・福祉・環境に回すというだけあって(なんと国費の三分の一が教育・福祉費!  警察費は僅か3.5%)、市民の政治に対する意識も高く、投票率は長年八割を保っているらしい(識字率は世界有数の93.5%)。国土の四分の一以上が国立公園や自然保護区に指定されており、自然保護の観点からも、コスタリカは相当先進的な国なのである。
  また、小学校から積極的に平和文化教育を取り入れており、映画の中でも、「あなたの権利は?」との先生の質問に「遊ぶこと!愛されること!」と生徒(小学一年生)が答えるシーンや、新聞記事やテレビのニュースなどを題材に生徒達(小学五年生)が討論するシーンなどがある。ここには、極めて高度で実践的な民主主義教育があるのだ。

  勿論(アメリカ主導の)国際社会の政治力学がある以上、コスタリカに問題がない訳ではない。例えば、以下のような歴史的事実もある。CIAと協力したコスタリカの公安相が、コスタリカ領土内にコントラ(ニカラグア反政府勢力)支援物資補給飛行場の建設を容認。アメリカのパナマ侵攻の際、CIAがゲリラを組織してコスタリカ領土内で訓練することを容認。CIAによるベネズエラ・クーデターの擁護。海上警備隊のアメリカ海軍との合同演習。などなど。中米というきわどい場所(「アメリカの裏庭」と呼ばれる)で、半世紀もの間、軍隊を持たずして生き延びるにはある程度「親米的」な態度が要求されることも想像に難くない。
  またコスタリカ政府は、「9・11」直後の OAS外相会議で、アメリカの政策(アフガン報復攻撃)を全面的に支持。2003年3月、イラク戦争開戦に於いてもアメリカを支持する姿勢を表明している。
  しかし、その後のコスタリカ市民の態度こそが重要だ。コスタリカ大学の学生が政府のアメリカ支持を「違憲」として裁判所に訴えたことを皮切りに、国内で政府に対する反発が高まり、遂にコスタリカの最高裁憲法法廷は、憲法や国際法などの精神に反し違憲、との判決を下した。結果コスタリカ政府は、イラク戦争を支持する「有志連合」のリストからコスタリカを削除するようアメリカへ要請するに至ったのである。
  1983年のルイス・アルベルト・モンヘ大統領(当時)による「積極的永世非武装中立宣言」も、アメリカと隣国ニカラグアの情勢を憂慮した平和的な市民が声を上げたからに他ならない。
  コスタリカも、日本と同様にアメリカ支援の下で戦後の安定した民主化をなし得た為、アメリカの政策に振り回されやすいという側面を持ってはいる。しかし問題は民度の差だ。軍隊を廃止して積極的な平和外交を展開すれば、他国から侵略されることなどない、という至極真っ当な考えを、多くのコスタリカ市民が共有しているのである。

  「同じ“平和憲法”と言っても、コスタリカと日本には大きな違いがある。コスタリカは外から言われたのでなく自らの考えで平和憲法を自前で作り上げた。しかも、日本のように自衛隊という名の軍隊がある訳でなく、国境警備隊など必要最小限があるのみだ。名実ともに軍隊を廃止した。 それ以上に強調すべきなのは、平和を実現する為に努力していることである。中米という内戦続きの土地柄だけに、黙っていれば平和はすぐに失われてしまう。平和を維持する為に、学校の授業では小学生から平和を強調し、その前提として民主主義や対話での紛争解決、選挙の重要性をこれでもかと時間をかけて教育している。 更に、国外に向けては、自国が平和である為には周辺の諸国も平和でなくてはならないと“積極的非武装中立”を掲げ、周りの国の紛争解決まで乗り出す。平和の為の積極的な行動という点で、コスタリカと日本は決定的に違うのだ。平和ボケどころか平和を輸出しようと意気込むところに、この国独特の平和哲学がある」(伊藤千尋)
  「平和について語り合うことは何よりもの特権です。私の国コスタリカは小さな国ですが、自然・人種・文化など多様性に富んでいます。“なぜ、軍隊を廃止したのか?”との問いかけに、ドン・ペーペ(1949年、軍隊廃止を決断した、故ホセ・フィゲーレス大統領)は答えます。“どうして私達の子供達に、平和を愛し人間を尊重する、より良い未来を望まないでいられるだろうか”。平和は全てに優先するものです。平和の文化とは、短い言葉で描写出来ます。“産んだ子供達を軍隊に送らなくてもいいと知っている幸福な母親”との言葉を分かち合いたいです。日本の皆様と平和、そして世界の非武装について語り合ってゆくことは私の希望であり、使命であります」「平和とは単に戦争のない状態を指すのではありません。行動を伴ってこそ平和になるのです。私達はバラス(弾丸)でなくボトス(投票)を選びました。平和を願うなら闘わなければなりません。単に“平和主義者”でなく、非暴力での闘いをするべきです。実現しましょう、夢を」 (カレン・オルセン・デ・フィゲーレス元大統領夫人)
  「平和は日々創るものです。コスタリカは軍を廃止し軍事予算を他の分野に回したことが、その後の発展の基礎になりました。今は非武装と軍縮を二つの目標に、武器の売買の禁止などの運動をしています。(中略)武器の国際取引がなかったらビンラディンの活動もなかったでしょう。米国ではテロで多くの人が死にましたが、貧しい地域で日頃どれだけの人が死んでいるかも忘れてはなりません」(アリアス平和財団の女性専務理事ララ・ブランコ)

  なお、本作DVD&VHSの通信販売はこちらまで(www.aifactory.co.jp)。DVDには、コスタリカの市民に数々の質問をする短篇作品『PURA VIDA』(2004年/山本遊子監督)が特典についている。