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獅子座
  (1959年 フランス)
  監督: エリック・ロメール
  原題: LE SIGNE DU LION
(THE SIGN OF LEO)
  主要舞台: フランス
    『獅子座』
「Eric Rohmer Collection DVD-BOX I 六つの教訓物語」
(DVD-BOX 3枚組)に収録
価格: 15,120円(税込価格)
品番: KKDS-101
(c)AJYM FILMS

  トリュフォーの『大人は判ってくれない』、ゴダールの『勝手にしやがれ』が発表された1959年、ヌーヴェルヴァーグを代表するもう一人の監督が長篇デビューしている。当時、若手評論家でもあったトリュフォーやゴダールらの兄貴分的存在であった『カイエ・デュ・シネマ』誌の編集長エリック・ロメールである。三十九歳にして長篇処女作の『獅子座』は、当初プロデューサーによってズタズタにカットされた短縮版で公開され、三年後の1962年、権利を買い戻すことによってオリジナル版が公開されるという呪われたデビュー作でもあった。
  興行的にも惨敗を喫した本作だが、しかし、本作は瑞々しい魅力に溢れた傑作だ。とにもかくにもモノクロの映像美。金欠の主人公ピエールが彷徨することによって見せてくれる、太陽光と影が織り成すパリの鮮烈な美しさ。物語的には主人公の置かれた状況は散々なのだが、目映いばかりのパリの情景を存分に楽しませてくれるのだ。やはりその辺りをロメール自身も語っている。「私はセーヌや、岸や、水への太陽の感光などを見せたかったのです。造るのではなく見せるのだという欲求、意志、欲望から出発しました」
  もちろん脚本も面白い。本作は、ボヘミアン的生活を送る売れない音楽家が、遺産相続を巡り、豪遊の果てに一文無しになり、パリの街を浮浪者と共に徘徊するという、あるひと夏の心理ドラマである。

  舞台は初夏のパリ。6月22日。セーヌ川に面したアパートに住む三十九歳の売れない音楽家ピエール・ヴェセルリン(ジェス・アーン)の許に、伯母の死と莫大な遺産相続を知らせる電報が届く。突然の吉報に有頂天のピエールは、友人の記者ジャン・フランソワ・サントゥイユ(ファン・ダウデ)に金を借り、恋人や友人達を自宅に集め、夜通し派手にパーティを開くのであった。

  パーティのさなか、占星術の話になり、浮き沈みの激しい獅子座生まれのピエールは、8月2日の四十歳の誕生日を迎えると運勢が変わるという。上昇宮が金星のピエールは、ふざけて、窓から金星に向けて発砲、管理人に苦情を言われるのであった。
  7月13日。ジャン・フランソワらピエールの友人達は、ピエールが遺産相続を手に出来ず、アパートや宿から夜逃げ同然の体で、サンジェルマン界隈をうろついていることを知る。そしてその後、ジャン・フランソワは、南アフリカ、モスクワ、リベリアなどに出張するのであった。
  7月30日。ホテル代を支払えないピエールは、ホテルの女支配人から遂に追い出される。頼みの綱の友人達は、皆、出張であったりバカンスであったりで、借金すら出来ないピエールのホームレス生活が始まる。
  物語は、その後数日間の、悲惨なピエールの彷徨を描く。炎天下のパリ。子供の食べ物をくすねようとし、犬に吠えられ失敗。万引きも店主に殴られ失敗。ゴミ箱あさり。野宿。歩き過ぎて靴の底が抜ける……。
  8月2日の誕生日も路上で迎え、セーヌ川を流れて来た菓子袋を必死で拾うも、当然中身は水浸しで食べられない、といった具合。そんな折、伯母の遺産を相続した従兄弟クリスチャンが自動車事故で死ぬのだが、勿論そんなことも知らず、乳母車を押すルンペン(ジャン・ル・プーラン)と知り合い、行動を共にするピエールであった。
  8月22日。ジャン・フランソワら、出張やバカンスから戻って来たピエールの友人達は、ピエールの最後の宿であったホテルやアパートを訪ね、ピエール宛の公証人からの手紙を発見する。
  獅子座の支配が終わる8月23日、新聞にはピエールの遺産相続の記事が出ている。従兄弟の死により遺産は倍額だ。そんなこととは露知らず、サンジェルマンのカフェの前で芸を披露する二人のルンペン。乳母車の男とピエールだ。老芸人のフィドルを借り自作のソナタを弾くピエール。とその時、店内に偶然いたジャン・フランソワがピエールの曲に気付く。
  そして遂に友人と再会したピエールは、ジャン・フランソワから遺産相続の話を聞かされ、上機嫌でジャン・フランソワらと車で去るのであった。

  と、占星術のままに進行する物語を追うと、随分間の抜けた逆転劇なのだが、パリの街を徘徊するピエールの、悲惨なシークェンスの執拗な描写にこそロメールの真骨頂はある。セーヌ左岸グランゾーギュスタンにあるアパート、そしてサン・ジェルマン・デ・プレのホテルから始まり、ポン・ヌフ橋、サン・ミシェル大通り、ボナパルト街、シャンゼリゼ、オデオン広場、ムフタール街、中央市場、コンコルド広場、オ・ドゥーブル橋などなど、ほとんどパリ観光を浮浪者ピエールにやらせてしまうのだ。疲労困憊した散々なピエールの眼を通して、パリのえも言われぬ美を証言・ドキュメントしてゆくというその着想にこそ、当時飛ぶ鳥の勢いにあったヌーヴェルバーグの革新性をみるのである。
  ちなみに、元々十六ミリで短篇を撮っていたロメールは、本作の興行的失敗により、しばらく再度十六ミリ映画に戻ることになり、「二人の女性を巡り悩む男」が主題の連作「六つの教訓物語」を発表してゆく(『モンソーのパン屋の女の子』『シュザンヌの生き方』『モード家の一夜』『コレクションする女』『クレールの膝』『愛の昼下がり』)。