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アトミック・カフェ
  (1982年 アメリカ)
  監督: ケビン・ラファティ、ジェーン・ローダー、ピアース・ラファティ
  原題: THE ATOMIC CAFE
  主要舞台: アメリカ
    (東京)
9月18日(土)より、ユーロスペースにてレイトロードショー
9月25日(土)21時10分より上映前対談あり(予定)
ゲスト:森達也(映画監督『A』『A2』)/青山南(翻訳家)
(大阪)
10月30日(土)より、第七藝術劇場にてレイトロードショー
公式サイト:www.takeshobo.co.jp/movie/atomic
配給:竹書房

  第二次大戦以降のアメリカ政府の世界的蛮行については、『華氏911』『チョムスキー9・11』『セプテンバー11』『ボーリング・フォー・コロンバイン』の項で触れた通りだ。

  ほとんどアメリカの文化的経済的植民地である日本のような国に生まれ育てば、日々の大衆操作に気付かないまま、偉大な民主主義とハリウッドとロックンロールの国を有り難がるという心理も、ある程度は理解出来よう。
  しかし、ベトナム侵略戦争以来暴露され続けているアメリカ政府の悪逆非道な実態を、日本人が見て見ぬふりをするというのであれば、話は別だ。当節のイラク侵略戦争で公然と行なわれているファルージャやナジャフでの大虐殺には、我々日本人の税金、在日米軍への「思いやり予算」も当然関係している。そして何よりも、主流日本人が選択しているコイズミ政権は、ブッシュの侵略を支持し、遂には自衛隊をイラクへ派兵、参戦するという愚挙まで犯してしまっている。嘘の上塗りを背景にした「国際貢献」の文字。恥を知れ、コイズミ!
  ここ近年、急激に右傾化した日本の世論を決定しているのは、勿論大メディアの大衆操作である。コメディアンとしても映画監督としても「終わっている」ビートたけしや「お山の大将」やしきたかじんのような男達と亡国右翼政治家に政治談義をさせ、嘘に塗れた日米戦後史観を再宣伝させるそのセンスは、いかようにも信じがたい。テレビ界を賑わす亡国右翼・御用芸人の醜悪な顔、顔、顔。無責任な大メディアは、もはや取り返しのつかないことをしてしまっているのだ。

  本作『アトミック・カフェ』は、まさに政府とメディアの大衆操作の実態に切り込む、編集ドキュメンタリー映画の古典だ。冷戦下にあったアメリカの、1940年代から50年代のニュース映像や政府制作の広報フィルム、軍隊の教育フィルムだけを素材に、一切ナレーションに頼らず、ポップ・ソング挿入と編集の妙だけで見せ切る、驚くべき作品である。

  マイケル・ムーアの諸作にみられる手法はまさにこれなのだが、実際ムーアは、処女作『ロジャー&ミー』(1989年)を撮る際、本作の監督ケビン・ラファティに、撮影道具の使い方からドキュメンタリー映画のコツまで師事してもらっている。
  「当時『アトミック・カフェ』というすごい映画を撮っていたケビン・ラファティに、俺にも映画の撮り方を教えてくれ、と頼んだら、驚いたことに気軽にOKしてくれたんだ。彼なしでは自分の出世作『ロジャー&ミー』も世に出なかっただろう」(マイケル・ムーア)
  1976年、根っからのコレクターであったピアース・ラファティは、『アメリカ政府広報映画3433本』というカタログ本に出会い、そのあまりの荒唐無稽な馬鹿馬鹿しさに感動し、膨大な量のアメリカ政府広報映画を素材として、大衆操作・プロパガンダがテーマのドキュメンタリー映画を作るというアイデアに思い至った。
  「手始めに私達は、対象を選り好みせず、ありとあらゆるものを見まくった。第一次大戦プロパガンダ。反共プロパガンダ。ベトナム戦争プロパガンダ。私達のやっていたのは、いわば投網漁のようなもの。とにかく手当たり次第に探しまくっていた。(中略)そんな訳で、原爆に関するプロパガンダは当初、私達にとって、より大きなテーマの内のごく一部に過ぎなかった。しかしながら私達は完璧主義を貫いた。私達はこのリサーチの期間中、実に一万本以上のフィルムを見た。当時はフィルム・アーカイヴがデータベース化もされていないような時代である。(中略)このリサーチのハイライトは、アメリカ陸・空軍が当時フィルムをストックしていたペンシルバニアのトビハンナ基地である。(中略)きのこ雲に突進してゆく兵士達の映像フッテージを発見した日のことだ。軍の事務所で、巨大な35mmフィルムのリールを手回しでチェックしている私達を、兵士達が取り囲みじろじろと監視していた。まさか彼らがこのフィルムを私達に気軽にくれるとは夢にも思わなかった。政府が、自分達のしでかしたことに気付いたのは『アトミック・カフェ』が完成した後だった。この映画の後、すぐに彼らは空軍のフィルムを全て別の場所へ移送した。今や、当時のように直接フィルムへアクセスするのはもう不可能である」(ジェーン・ローダー)
  結果、彼らは当初のプロジェクトから焦点を絞り、原爆プロパガンダのフィルムに主題を集中させることとなった。

  コラージュされたフッテージは、被爆の恐ろしさを知る我々日本人にとって信じがたい映像の数々だ。おもちゃのような放射能測定バッチなるものを胸に、原爆実験の爆心地へと放り込まれるアメリカ兵達。原爆の危険性を知らずに、原爆実験に協力させられるビキニ環礁の住民達。亀のバート君(ムーアの作品にも登場)をマスコット・キャラクターにした、子供向け教育フィルム(「さあ、もしピカッと閃光が走ったらどうする?  そう、首を引っ込めて、頭を隠すんだ!」)。スパイ容疑で処刑された核科学者ローゼンバーグ夫妻の処刑実況中継(1953年、ローゼンバーグ事件)。1950年代、アメリカの各界に吹き荒れた反共の嵐、マッカーシー旋風。その他、トルーマン大統領、アイゼンハワー大統領、ルイス・ストラウス原子力委員長らの、噴飯ものの発言の数々。

  以下に、当時の要人の信じられない発言を幾つか引こう。
  「あの日、(原爆実験の)爆発の写真を持って来た。それをみんなに見せた。“原子爆弾”という言葉は使わなかった。“爆弾だ”と言っただけだ。“明日はこんな感じだ。落とすとこうなる”。それで予習は完了。飛行機(エノラ・ゲイ)に乗って飛び立った。飛行が安定したところで、私は操縦席を立って、志願兵達の所へ行った。魔法瓶からコーヒーをそそぎ、我々の使命を伝え、“爆弾を積んでる”と言った。第一目標のヒロシマは天気が快晴だったから、迷うことなくそこへ向かった。いつも通りの手順だよ。爆弾投下地点までの飛行も、これまたいつも通り。敵の戦闘機の姿もないし、対空砲火もなかった。だから、心置きなく爆弾の投下に集中出来た。そして、いよいよ投下。指示されていた通り旋回した。爆風がきた。それは二種類の衝撃波で、最初のが強烈だった。でもこれもまた、面白みはない。いつもと同じだ。しかし、それが与えたダメージを見た時は、何か信じられない、とんでもないことが起きたと感じたよ。みんな、わいわい言いながら写真を撮った。そうしている内、だんだん心配になり、見物を中止して引きあげた。海上に戻ったのは、爆弾投下から約二十分後だったよ。(中略)爆撃目標を選ぶ時に言われたのは、爆撃されてない場所にしろってことだ。理由は、はっきりとは言われなかったが、爆弾の効果と被害を研究したかったんだ。まっさらな場所でだ。軍事的な意味も確かにあった。それはそれなりに。でも、まるで教室での実験だ。爆弾の威力を調査する為のね」(ポール・W・ティベッツ/広島に原爆を投下したエノラ・ゲイの機長)
  「我々は、二十億ドル以上も費やし、歴史上最大の科学的な賭けに挑み、それに勝利しました。原爆が出来たので、我々は使ってみました。日本の戦意を叩き潰すまで使います。日本が降伏するまで使います。大変な責任を我々は引き受けたのです。神に感謝しましょう。それが敵の手に渡らなかったことを。皆さん、神のお導きで、神のご趣旨に沿うよう使っていきましょう」(トルーマン大統領/原爆投下発表時)
  「最初の原子爆弾が落ちた都市を見たか?/ああ、ヒロシマの上空を三十分ほど飛んだ/めちゃめちゃだろ?/ダブルヘッダー後の野球場みたいだった(爆笑)」(アメリカ兵の会話)
  「原爆は使えと、私は前から言ってきた。北朝鮮にはいくつか有効な攻撃目標がある。そこを原爆で破壊すれば彼らを殲滅出来る。その先の中国にも破壊すべき目標はある」(バン・ザント下院議員/朝鮮戦争で)
  「諸君は原爆作戦でここに来た。これはいい加減な作戦ではない。何か月も前から周到に練られた計画だ。安全に距離をとって眺めると、この爆発は人類史上最高に美しいものだ。諸君もきっとこう言うだろう。“なんて美しい……どこが危険なんだ?”。注意して欲しいのは三つだけだ。爆発。熱。放射能。(中略)だが実は(放射能が)三つの中では一番どうでもいいものだ。特に兵士が地上で動く場合はだ。(中略)放射能で不能や重病になることはない。そうなる前に、爆発や熱で死んでしまっているからだ。心配無用。本作戦はまったく問題ない」(上官から兵士達への、原爆実験の説明)
  「アメリカは神が地上に造られた最強の国だ」(アイゼンハワー大統領)

  本作のブラックなユーモアを際立たせているのが、挿入されている珍妙なポップ・ソングの数々だ。アメリカで1940年代から50年代にかけて作られた、原爆をテーマにしたカントリー・スイング調の楽曲群である。勿論それらは、反核を謳うプロテスト・ソングではない。核の威力にアメリカの繁栄を投影した、極めて脳天気でビザールな唄どもである。

  例えばこんな調子だ。「ヒロシマへの爆弾はきっと/神様が兵士達にくださったお返事だ〜」「みんな原爆の心配ばかり/神様のご降臨を忘れている/神様が降りてきたら原爆の比ではないぞ〜」「頑固な共産主義者にたっぷりお見舞いしよう/放射能でアカども全員丸焦げだ/マッカーサー将軍に原爆を落としてもらおう!」「せっせと稼いでも全部/税金と請求書に消える/俺の悩みの解決法を見つけたんだってな/やったやった水素爆弾だ!/えーい落としちまえ/神様!俺だけは助けて」「これはがぶ飲みなんてしなくていい/一口なめればもう充分/カブトムシくらい小さいが/クジラのようにでかい/ドン!原爆カクテル!」「核ベイビー!/僕の上で分裂しないでおくれ〜」「放射能ママ/今夜は二人で臨海点に達しよう」「はっきり言っておく/俺は共産主義者じゃないぞ!/家や車や牛は自分で所有したい/自分の物は自分の物/俺に構うな!」「かわいい原爆ベイビー/俺の小屋に連れて行こう/一緒に暮らそう/俺のシェルターで〜」
  以下、挿入歌の一部ソング・リストだ。<アトムと邪悪><原爆が落下したとき><戦勝ブルース><アトミック・パワー><イエス・キリストは原爆のごとく打ちたもう><原爆が落ちるとき><原爆説教><老人アトム><衛星ベイビー><アトミック電話><アトミック・カクテル><アトミック・ラヴ><原爆ベイビー><きみと冷戦下>などなど……。ああ、この荒唐無稽な馬鹿どもは「記録」に値する。サントラ盤のCD化を切に望むところだ。

  『華氏911』や『ボーリング・フォー・コロンバイン』に多大な影響を与えた、驚愕のアンチ・プロパガンダ・ムービー。9月下旬より順次全国公開の予定だ。必見!
  ちなみに、凄いオチがある。監督のラファティ兄弟、なんとブッシュの従兄弟なのである!!