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チョムスキー 9・11
  (2002年 日本)
  監督: ジャン・ユンカーマン
  英題: POWER AND TERROR
<NOAM CHOMSKY IN OUR TIMES>
  主要舞台: アメリカ
    「チョムスキー 9.11 Power and Terror」
DVD発売中:¥2,625(税込)
発売元:日本ヘラルド映画
販売元:ジェネオン エンタテインメント

  ノーム・チョムスキーは、ベトナム戦争のその初期段階から一貫してアメリカの外交政策を激しく批判し続けている、知る人ぞ知るユダヤ系アメリカ人の言語学者だ(マサチューセッツ工科大学教授。1928年生まれ)。その筋では言語学の革命児的存在らしく、俺も名前こそ知ってはいたが、彼の著作・発言に、具体的に触れたのは「9・11」以降のことであった。『9・11 (アメリカに報復する資格はない!)』がここ日本でもそこそこ読まれたので、今やその名を知る者も多いことだろう。
  チョムスキーは、ただひたすら歴史的事実を積み上げ、テロ国家の親玉アメリカ合州国の本性を暴露してゆく。特にニカラグアやパナマなど南米に於ける蛮行の例を具体的に挙げ、アメリカによる大量虐殺が世界的に少しも珍しいものではないことを指摘する。
  「9・11」へと至らしめたアメリカの外交政策を知らされていない当のアメリカ人達が、彼の舌鋒鋭い話を聞きたがるのは当然なことだろう。講演に次ぐ講演の日々。そう、「語ること」が彼の日常になっているのだ。
  チョムスキーのインタビュー映画を今こそ制作するべきだと考えたプロデューサーの山下徹二郎とドキュメンタリー映画作家のジャン・ユンカーマンは、極めてタイトな彼のスケジュールから三度のインタヴューと数回の講演会の撮影機会を得て、この示唆に富んだ「政治評論」のドキュメンタリーを完成させた。
  彼の考えや発言を知ろうと思えば、その夥しい数の著作にあたればそれで事足りる訳だが、このインタヴュー映画は、彼のユーモラスな一面や人間味に溢れた物腰をあますことなく伝えてくれる。ややもすれば難解だと敬遠されがちな、高度な「政治評論」も、74歳のチャーミングな反戦主義者の柔和な表情を通すことによって、圧倒的な積極的思考の人間主義として軽やかに響く。著作未読の人には、まず先に本作を勧めたい。

  本作中の印象的な言葉を幾つか引こう。
  「私が思うに、テロ(9・11)の最大の影響は、既にあった動きを加速し、強めたことです。少し形を変えただけでした。日本でもどこでも同じです。日本では“憲法改正”に向かうかも知れません。世界中の政府が“9・11”をチャンスとみました。保守的で残酷な計画を進める絶好の機会だと。国民は当然不満に思い、反対するでしょう。しかし恐怖と緊張の時期を利用して、愛国心に訴えれば、計画を遂行出来る。国民に忠誠と従属を求めればね。権力とはそういうものです。機会を狙っています」
  「“対テロ戦争”なる言葉は眉つばです。世界最悪のテロ国家が率いているのですから。国際司法裁判所でテロ国家と非難された唯一の国、アメリカです。国連の安保理も同じ意見でした。アメリカに“対テロ”を語る資格などない」
  「この数百年、常に帝国主義国家は攻撃を免れてきました。悲劇は(帝国主義国家以外の)他国で起こるものです。日本が中国で残虐行為を行なった時に、中国人が東京でテロを行なったでしょうか。いつも他の場所。でも今回(9・11)は違いました。それほど驚くことではありません。私は以前から話したり書いたりしてきました。現代の技術を使えば、高度な技術を持たない小さな集団にも大惨事を起こすことが可能です。サリン事件も一例です。騒いでもしょうがない。これ以上の悲劇を防ぎたいと思うなら、原因を探すことです。路上の犯罪も戦争も、どんな犯罪であれ、背後には幾ばくかの事情があるものです。路上の犯罪も兵器を使う犯罪も同じです」
  「アイゼンハワー大統領の発言(1958年)が残っています。“中東には我々を憎む運動がある。政府の指導ではなく民衆主体の運動だ”。国家安全保障会議が背景を分析しました。“あの地域には明確な認識がある。アメリカは堕落した残酷な政権を支援し、民主化と地域開発を妨げている。どうやら狙いは石油と思われているらしい”。これには困ったね。その通りなんだもの(場内爆笑)。“この認識を正しく変えるのは困難だ。アメリカにとっては、悪政を支持するのも、民主化と発展を妨げるのも、当然なのである。資源の支配を維持する手段として。だから中東の民衆はアメリカを憎むのだ”。“9・11”後の調査結果も基本的には同じ。みんな知ってます。アメリカの外側の声を聞くのは簡単です。彼らはいつだって答えてくれるでしょう。他人に踏みつけられて喜ぶ人などいません。だからアメリカを憎む。美しい夢にひたるのも自由ですが、あなた方自身の選択です」
  「(フセインが)自国民(クルド人)に対して毒ガスを使うのも、大量破壊兵器を開発するのも、米英の支援の下で行なわれた。いかに残虐かに関わりなく、(米英が)当時のフセインを利用する為でした。彼は怪物ですよ。今より危険だった。大量破壊兵器を開発したのも、我々(アメリカ人)が支援したからだ。今のフセインは、以前ほど危険な存在ではありません。さらなる攻撃の理由にはなり得ない」(チョムスキー)

  チョムスキーの考えは明確だ。ブッシュに、歴代アメリカ政府に、「他者に課す基準は自分にも課すべきだ」という当り前の倫理を求めているに過ぎないのだ。貧しい者を公然と食い物にして成立する野蛮なアメリカ主導のグローバリズム社会を直視せよと言っているのである。
  「こうした事実は今まで歴史からすっかり取り除かれてきた。屋根の上から大声で叫ぶ必要があるんだ」(チョムスキー)
  本作中のチョムスキーの発言は、2002年春のものなので、アメリカのイラク政策について多くは触れていない。映画撮影後に起きた出来事、特にイラク侵略戦争後のアメリカの政策及び世界情勢については、2003年7月22日に行われたジャン・ユンカーマンによるインタビュー全文のサイトを参照されたし。[www.cine.co.jp/chomsky9.11/interview_jpn06.html]

  「おそらく現存する最も重要な知識人だ。でも彼の政治的発言はあまりにも馬鹿げていて、堪えがたい」(ニューヨーク・タイムズ紙)
  「73歳になっても静かに身を引こうとしないチョムスキー」(サンフランシスコ・エグザミナー紙)
  「ノームは、不正な権力や惑わしと闘う重要な挑戦者の一人である」(エドワード・サイード/コロンビア大学教授)
  「(チョムスキーは)この国の、最も重要な“天然資源”のひとつ」(ポール・ジョージ/平和活動家)