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レイニング・ストーンズ
  (1993年 イギリス)
  監督: ケン・ローチ
  原題: RAININNG STONES
  主要舞台: イングランド
    発売元:シネカノン
作品詳細・販売情報:シネカノン >VIDEO & DVD >ケンローチコレクション

  1980年代のイギリスは、サッチャー政権による、高福祉政策から自由主義市場経済への大転換の断行によって、夥しい数の失業者を生み出すに至った。公共事業の民営化、市場の競争原理は、イギリス経済を好転させたが、当然のことながら貧富の差を拡大し、底辺の労働者、弱者が切り捨てられることになったのだ(もはや日本も人ごとではない)。
  本作『レイニング・ストーンズ』は、ケン・ローチの前作『リフ・ラフ』同様、サッチャーイズムの直接的被害者である労働者階級の苦悩を悲喜劇調で描いた人間ドラマだ。失業中の窮乏生活にありながらも愛する娘の為に奮闘する父親の姿を、ローチならではの人情味溢れた眼差しが温かく活写するのである。
  タイトルの「レイニング・ストーンズ」とは、マンチェスター地方の俗語で「石が降って来るような辛い生活」を意味する。働きたくても働き口がない失業者達の、苦闘する日常そのものだ。

  舞台はマンチェスターの住宅団地。失業中のボブ(ブルース・ジョーンズ)とトミー(リッキー・トムリンソン)は羊泥棒を敢行。やっとの思いで盗んだ一頭の羊を肉屋に捌かせてパブなどで売り歩くも、目論見通りにはいかない。しかも肉が売れるどころか、パブの前に停めていたバンを何者かに盗まれる始末。何をやっても間抜けな結果に終わってしまう、冴えない中年男のボブとトミーであった。
  ボブの一人娘コリーンはもうすぐ七歳。コリーンの初めての聖餐式に備え、新調のドレスを何とか買ってやりたいボブだが、あいにく全く金はない。一人で出張の下水道掃除をするボブに、教会のバリー神父は、生活さえままならないのに新調のドレスなどで見栄を張る必要はないと諭すが、敬虔なカトリック信者のボブにとって「娘のドレス」は絶対なのである。バリー神父いわく「中流階級の親はあまり金をかけないのに……」。貧乏なカトリック信者ほど子供の一生の記念になる聖餐式に分不相応な費用をかける傾向があり、妻のアンの父は「宗教は人間から考える力を奪ってしまう」とボブに忠告するのだが、ボブは貸しドレスではなく絶対に新調のドレスにこだわるのであった。
  ある日ボブは、アンとコリーンを引き連れ、洋品店を訪れるが、ドレスの値段を聞いてビックリ。しかもボブはレイブ・ディスコの警備員をクビに、アンも裁縫工場をクビになるという不運続き。トミーら仲間達と、保守党のクリケット場から芝生を盗み小金を貯めるボブであった。
  何とかやりくりし、娘にドレスを買ってやるボブ。しかし、聖餐式の前日に事件は起きた。アンがコリーンの為にクッキーを焼いていると、突然悪徳高利貸しのタンジーがやって来て、暴力的に、僅かな現金と結婚指輪をアンから奪い取ってゆく。そう、ボブはアンに内緒で借金をしてドレスを買ったのであった。
  事情を知ったボブは逆上し、スパナを手にタンジーを追う。格闘の末、逃げ去ろうとしたタンジーの車は駐車場の柱に激突し、そのままタンジーは息絶えるのであった。
  動揺するボブは、バリー神父を訪ね、泣きながら全てを打ち明ける。しかしバリー神父は、警察に行くことはない、このことは誰にも言うな、と言いながら、タンジーの持っていた借用書を全て焼いてしまうのであった……。

  仕事ばかりか、誇りまでをも奪われそうな男達の絶望。それでもローチは決してユーモアを忘れない。絶望をメロドラマにせずユーモアでくるむのだ。冴えないボブやトミーのことごとく失敗するシーンには、どん底にあっても決して笑いを忘れない底辺の者達のしぶとい生きざま、人間味溢れる日常が詰まっているのだ。
  トミー役のリッキー・トムリンソンは、前作『リフ・ラフ』同様、名脇役ぶりを発揮。二作続けて醜いケツを披露している。
  「叩きのめされても、打ちひしがれてしまうことのない人々についてのものだ。ボブについて重要なことは、彼が打ちのめされず、死にもの狂いで自尊心をそのまま保とうとすることだ。それはまた、異なった種類の道徳についてのものでもある。狩猟場から羊を盗んで肉屋に売ることや、保守党のクリケット場から芝生を盗むことには、何も悪いことはない。それは公正なゲームなのだ。しかしながら、高利貸しがするように、自分自身と同じ部類の人々を食い物にしてはいけない……それは容認しがたいことだ」「私達は、まさにありのままの人生……借金しない為にどうにかこうにかやっている人々にカーテンを開け放ちたかったんだ」(ケン・ローチ)
  常にローチの映画は、社会や国家から叩きのめされる人々を描く。しかし重要なポイントは上記のローチの発言にこそある。そう、彼らは決して自尊心を失わないのだ!