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リフ・ラフ
  (1991年 イギリス)
  監督: ケン・ローチ
  原題: RIFF RAFF
  主要舞台: イングランド
    発売元:シネカノン
作品詳細・販売情報:シネカノン >VIDEO & DVD >ケンローチコレクション

  反骨の映画作家ケン・ローチ(『ケス』『スイート・シクスティーン』などの項参照)は、1960年代後半に発表した二本の劇映画、『夜空に星があるように』『ケス』の成功のあと、長篇テレビ・ドラマやドキュメンタリーの分野に進出し、1980年代にはサッチャー政権の検閲と闘うことを余儀なくされた。なかなかチャンスに恵まれず、70年代、80年代に劇映画は四作しか発表していない。
  しかし1990年代に入り、ローチは世界的な劇映画作家として華々しく復活を遂げた。90年代に発表された『リフ・ラフ』『レイニング・ストーンズ』『レディバード・レディバード』『大地と自由』『カルラの歌』『マイ・ネーム・イズ・ジョー』といった圧倒的な名作群によって、ローチは世界的名匠と呼ぶに相応しい映画監督と認知されるに至ったのだ。
  ローチのストーリーテラーとしての才能を世界に印象づけた最初の復活作が本作『リフ・ラフ』である。危険な土木建設現場に於ける労働者の日常。極貧生活の中で夢に生きるスコットランド青年とアイルランド娘の恋愛。底辺に生きる者達の人生をあるがままに活写し、救いのないように見える日々をユーモアを忘れずに瑞々しく描いてゆく。
  そして何といっても、90年代イギリスの青春群像劇にかかせない名優ロバート・カーライルの存在だ。激情の中から垣間見せる誠実さ。どこか間の抜けた中途半端な不良性。強さと弱さの相互転化。カーライル独特の魅力は、この『リフ・ラフ』を皮切りに、多くの「イギリス斜陽系映画」に欠かせない存在感を示してゆくことになるのだ。そう、奴が出演しているのなら観てみようと思わせてくれる、今時貴重な俳優なのである。
  タイトルの RIFF RAFF は、下層民、人間のクズ、がらくたを意味する。本作は、そのまんま、社会からの蔑みをものともしない下層労働者達の、闇から立ち上る人間讃歌だ。

  舞台は、サッチャーイズム吹き荒れる1980年代後半のロンドン。スコットランド・グラスゴー出身のスティーヴ(ロバート・カーライル)は刑務所を出所し、何とか、古い病院を豪華アパートに改築する建設現場に職を見つけるのだが、そこは低賃金の掃き溜め。アイリッシュ、移民、アフリカ系二世らがやむなく肩を寄せ合う、劣悪な労働条件の職場であった。しかし、下品極まりない野蛮なギャグを交わし合う彼らには、互いを思い合う相互扶助の精神がある。「盗み」もするが、なかなか素敵な奴らの集まりなのだ。
  スティーヴは拾ったバッグを届けたことから知り合った歌手志望のスーザン(エマー・マッコート)と同棲生活を始める。お世辞にも唄がうまいとは言えないスーザンは鬱病持ちで、直情的なスティーヴとは喧嘩が絶えないのだが、二人の葛藤する不器用な愛はいつしか堅い絆で結ばれてゆくのであった。若くふらつきがちな二人の愛が、職場の仲間達に冷やかされながらも支えられる様子が実にいい。
  そんなある日、スティーヴが母の葬儀の為にグラスゴーへ帰郷。留守中に、孤独と鬱に悩むスーザンがヘロインに手を出したことから、二人はあっけなく喧嘩別れしてしまうのであった。個人的にドラッグに対してつらい過去を持つスティーヴには、許しがたいことであったのだ。
  一方、職場では、みんなの為に労働条件改善を訴えるラリー(リッキー・トムリンソン)が解雇され、上司を殴ったアイリッシュのシェム(ジミー・コールマン)が警察に連行される。更に、アフリカ行きを夢見ていた黒人のデジー(デレク・ヤング)が作業中の転落事故で重傷を負ってしまう。
  その夜、スティーヴと仲間のモー(ジョージ・モース)は、建築中のビルに侵入し、放火。彼らの憤まんやる方ない怒りのように、炎はビルを覆うのであった……。

  ここには、劇的な台詞も、深い問題意識も、ハッピーエンドの気休めも、救済も、描かれない。ただ淡々と、生き延びる為に下卑たギャグと思いやりを必要とする男達の、変わることのない窮乏生活が描かれるのである。解決の鍵はそれぞれの胸の内にのみあるのだ、と言わんばかりの、ローチの冷徹な視線に晒された底辺群像が、観る者の心の奥底にえも言われぬ余韻を残す。そう、人間の作った社会を変えるのは、やはり人間でしかないのだ。
  ちなみに、ローチにとって本作は、なんと日本初紹介作。音楽は、ポリスの元ドラマー、スチュワート・コープランドが担当している。脚本は、建築現場で働きながら執筆活動を行っていたビル・ジェシーなのだが、自体験を元に書かれた本作の脚本が彼の遺作となってしまった。
  「彼(脚本のビル・ジェシー)は建設現場で怪我をした人々を知っていた。小さな現場ほど、ひどく危険だ。そこでは、多くの仕事は下請けであり、危険な労働条件に対して人々を守る組合代表者は一人もいないんだ。人々が偽名を使って働くことは、こうした現場では珍しくはない」「私達が『リフ・ラフ』を十六ミリで撮影し、また低予算だったという事実が役に立った。というのも、“私達はどこで創作価値を加えることが出来るのか?  私達はどこでそれを素敵なショットで飾り立てることが出来るのか?”などと考えながら、私達はのらくらしている訳にはいかなかったからだ。私達は人々の間で起こっているものの本質に辿り着かなければならなかった。そして、私達は五週間で撮影しなければならなかったので、そのことは人々に早く行動するようにさせた。彼らがそうすると、至る所に多くのエネルギーが生まれ、それが演技をより良いものにするんだ」(ローチ)