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そして人生はつづく
  (1992年 イラン)
  監督: アッバス・キアロスタミ
  原題: ZENDEGI EDAME DARAD (AND LIFE GOES ON …)
  主要舞台: イラン
    そして人生は続く
発売元:IMAGICA
価格:¥4,935(税込)
作品解説:シネフィル・イマジカ
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  1990年、イラン北部一帯を三万五千人以上の死者を出した大地震が襲い、キアロスタミが四年前に撮影した『友だちのうちはどこ?』のロケ地、コケール村も壊滅的な被害を蒙った。地震の数日後、出演者の消息をたずねる為に息子を連れ被災地へと向かったキアロスタミは、惨状にも関わらず強く生き抜く村人達、不変の美しい自然、あまたの続きゆく人生に、強く心を打たれ、本作『そして人生はつづく』の制作に取りかかるのであった。いわゆる「ジグザグ道三部作」の二作目である。
  「『友だちのうちはどこ?』で少年はノートを届ける為に友達の家を探していました。『そして人生はつづく』では親子が地震で安否の分からない二人の子供の行方を探しています。探すこと、その象徴としてあのジグザグ道は出てくるのです」(キアロスタミ)
  本作の脚本はそのまま、テヘランからコケール村へと車で向かったキアロスタミ(と息子)の実体験を元にしている。劇中の息子の台詞は、実際に同行したキアロスタミの息子によって書かれたということだ。

  物語は、映画監督とその息子プーヤが被災地のコケール村へと向かう車中から始まる。ラジオが伝える被災地の状況。地震により親を亡くした子供の話、決定的に不足する救援物資……。彼らのゆく幹線道路は大渋滞だ(ソウル・フラワーが被災地神戸へ演奏に行き始めた1995年の2月頃、大阪から神戸までのあの距離を、車で六時間以上も掛かったことがある)。
  被災地に近付くにつれ、甚大な被害の痕跡が車窓から彼らを生々しく襲う。崩壊した村落。瓦礫の山を片付ける、家族を亡くした多くの人々。落岩に押し潰された、ひしゃげた車。山肌の痛々しい何本もの亀裂……。
  道中で出会ったコケール村出身者に、監督は車中から『友だちのうちはどこ?』のチラシを見せて村人の消息を尋ねるのだが、「コケール村は全滅で彼らの消息は分からない」との返答。
  やがて、見覚えのある老人にばったりと出会う。『友だちのうちはどこ?』でアハマッドに道を教える役を演じたルヒだ。「何に使うか、見れば分かるだろ?  死んだ人は死んだ人。生き残った者にはなくてはならぬ物だよ」と笑わせながら便器を運んでいる。彼は言う。「人は年寄りになって初めて若さが分かる。死んで初めて生きているありがたさが分かる。墓に入った者が生き返ったら、人生をより良く生きるようになるだろう」
  ある村では、避難テント生活を強いられている被災者が、アンテナを立てて、真っ只中のワールド・カップ中継をテレビ観戦しようとしている。映画監督は聞く。こんな時にサッカー?  そしてその被災者は答える。「ワールド・カップは四年に一度だからね。地震は四十年に一度だけど」
  ここにあるのは、生き残った者達の力強い「生」への意欲である。嘆き悲しむばかりではない、連続する「生」。人生は続くのである。
  そして特筆すべきは、映画史に残るであろうラスト・シーンの美しさだ。ジグザグにゆく急勾配の道を、長回しのロング・ショットで鳥瞰するカメラ。エンストを起こしながらも、何とか登ってゆく監督のボロ車。物資を運ぶ男。ヴィヴァルディ。茶色の山肌。人生は続くのである。

  果たして、丘の上に小さく見えた二人組はあのアハマッド役の少年なのか?  本作でもキアロスタミは結末を示さない。『友だちのうちはどこ?』の出演者の消息をたずねる目的で始まった「旅」であるが故に、またもや観る者は、アハマッド達の元気な姿を期待しながら、「探索」を共有させられるのである。被災地を「探索」する監督と我々が「見つけたもの」。それはまさしく生きることの尊厳、希望である。涙がこぼれた。
  十年前、神戸にもあった多くの悲しみ、出会いと別れ。天災の前では、我々人間はあまりにちっぽけな存在だ。しかし俺も見た。どん底にあっても、人間はうまい飯を食おうとするし、笑いもすれば、歌いもするのだ。被災者の悲惨な状況を描けていないなどという、本作に対する批判があったということだが、とんでもない。どんなに絶望的状況にあっても、否、絶望的であるからこそ、人々の思いは力強く響き合い、日常を慈しみ、笑い、歌い、夢を見て、人生は続いてゆくのである。
  「夢と現実が一つになるまで夢を見続けよう」(キアロスタミ)
  なお本作に出てくる、地震の翌日に挙式した夫婦役の二人が、現実の結ばれないカップルであるという実話(男性の方が持ち家もなく文盲であった為に、女性の両親から求婚を断られている)をキアロスタミは知り、その話から、「ジグザグ道三部作」の完結編、『オリーブの林をぬけて』(1994年)の構想が持ち上がった。『オリーブの林をぬけて』は、キアロスタミにしては珍しく男女の愛を綴った作品で、イラン政府から「良からぬ映画」の烙印を押された為に、安価で配給権を売るはめになったいわくつきの作品である。