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素晴らしき哉、人生!
  (1946年 アメリカ)
  監督: フランク・キャプラ
  原題: IT'S A WONDERFUL LIFE
  主要舞台: アメリカ
    「素晴らしき哉、人生!《特別版》」
発売元:東北新社
価格:¥3990(税込)
DVD発売中
www.tfc-dvd.net

  十代後半の映画狂少年フランソワ・トリュフォーが、パリ中のシネクラブに上映を働きかけるほど、心から熱烈に愛していたという一本の映画。それが、この著名なアメリカ映画『素晴らしき哉、人生!』である(スピルバーグのベスト・シネマでもある)。
  1920年代から活躍していた巨匠フランク・キャプラは、『或る夜の出来事』『オペラハット』『スミス都へ行く』などの傑作を発表後、第二次大戦に従軍。「反ファシズム」のプロパガンダ映画を作ったのち、終戦後、同じく従軍していた名優ジェームズ・スチュアートと組んで、この感動作を作り上げた。
  従軍経験により人間不信にまで陥ったというキャプラは、生への渇望、人間讃歌を、映写幕からはみ出さんばかりに、目一杯描き切る。キャプラは語る。「戦争の残忍さというのは本当にリアルなもので、それは戦うことの勇敢さとかヒロイズムをなくさせる全く粗野で乱暴なものだった」「(従軍から戻り)“戦争もの”は絶対に撮らないつもりだった。戦争は恐ろしい。大嫌いだ。あんなものは大昔に亡くなっているべきだった。人を撃ったり、爆弾を落としたり。戦争映画は嫌だった」
  公開当初、本国アメリカで興行的に大赤字を食らった本作は、1970年代以降、テレビのクリスマス映画の定番となり、今ではアメリカ映画屈指の名画として人々に広く認知されている。

  映画は、主人公ジョージ・ベイリー(ジェームス・スチュアート)の投身自殺を天上から眺める、天使達の会話から始まる。物語は回想形式で、ジョージの子供時代から追ってゆく。
  真冬の池に落ちた弟ハリーを助けた為に、片方の聴力を失ったジョージ。彼の夢は、生まれ故郷ベタフォードを飛び出し、世界一周旅行をするというもの。そして彼の父は、住宅金融会社を経営し、貧困層に低利で住宅を提供するような男である。町を仕切る銀行家のポッター(ライオネル・バリモア)は、そんなジョージの父を目の仇にして、ことあるごとに圧力を加えてくるのであった。
  大学を卒業し、正に夢に羽ばたかんとしていたジョージは、突然の父の急死により、株主会議で後継社長に推され、住宅金融会社を継ぐことになる。家庭を持ち、1929年の大恐慌も乗り切り、愛妻メアリ(ドナ・リード)と四人の子供との幸福な生活も順風満帆、常に貧者の側に立つ、父の意志をも引き継いだジョージであった。
  しかし物語は暗転する。社員であり叔父でもあるビリー(トーマス・ミッチェル)が、会社の大金を紛失してしまうのだ。たまたま紛失した金を手にしたのがポッターで、当然ジョージを助けるどころか、脅迫してくる始末。会計監査官、逮捕令状も自宅へやって来る。
  絶望したジョージが橋の欄干から身投げをしようとした、正にその時、奇妙な老人が彼より先に身投げし、ジョージは必死で老人を助け出すことになるのであった。クラレンス(ヘンリー・トラヴァース)と名乗る老人は、実は天国からの使者で、翼のない「二級天使」。翼を貰う為にジョージを救いに来た守護天使(ガーディアン・エンジェル)であった(ヘンリー・トラヴァースがホントいい味出してる)。
  こんな世の中に生まれて来なければ良かったと洩すジョージに、彼が生まれなかった場合の「幻の世界」を見せるクラレンス。余りに酷い「幻の世界」の有り様に、ジョージは絶叫する。元の世界に戻してくれ!と。
  現世に戻り、その喜びの為にベタフォード・ストリートを「メリー・クリスマス!」と連呼しながら、我が家へ駆け戻るジョージ。そこへ、ジョージの窮状を知った町中の人々が、寄付金を携え、彼の家へ押しかけて来る。合唱される <蛍の光>(原曲はスコットランド民謡 <久しき昔(AULD LANG SYNE)>。1794年、スコットランドの反骨詩人ロバート・バーンズ作詞)。「昔の友人を忘れてはいけない。過ぎ去った日々に乾杯だ」。心の温かさが人々を繋ぐ、圧倒的なシークェンスだ(普段、大方のハリウッド映画がダメな俺も、ここで滂沱の涙。<蛍の光>がこんなにいい曲だったとは)。
  そして、ジョージは寄付金で溢れる篭の中から、ふとあるものに気付く。それはクラレンスが肌身離さず持っていた一冊の本『トムソーヤの冒険』であった。そこにはクラレンスからのメッセージが書き記されている。「友ある者は救われる。翼をありがとう。クラレンス」

  キャプラのハッピーエンド主義を、楽天的過ぎると切り捨てる者もいるが、彼の生い立ちをみると、その圧倒的な人間主義をより深く理解出来る。六歳の時にイタリア移民としてアメリカに渡った彼は、極度の窮乏生活の中、ろくに教育も受けず、子供の時から様々な職業を渡り歩いた。放浪者、小作人、ギャンブラー、賞金稼ぎのボクサー、密造酒作りなどなど。彼は、その人生の前半期に体験したあまたの人々との出会いから、「人間」をより深く愛するようになったのだ。
  困難な人生、でも諦めるな、希望を持ってボチボチやっていこうやないか。そんな気恥ずかしいメッセージに溢れた『素晴らしき哉、人生!』を、俺は断固支持したい(とにかく後半の三十分だ)。映画は人生の素晴らしさを教えてくれるものだ、という基本中の基本がここにはある。
  「ある意味で全ての映画は自叙伝だ。色んな人間の人生の断片を集めて一本の映画を作る、それを出来るのが映画監督なのだ。一人の移民少年としてアメリカにやって来た時から、私はここに住む人々を愛してきて、皆が各々に持っている唄を、映画を通して歌い上げたかった」「私は、ウォルト・ホイットマン(詩人)が世界中の人に向けて歌った“あなたが何者であろうと、あなたの内にはあらゆる人が持つ尊厳の全てが存在している”というメッセージをこの映画に託したかった。またジョバンニが五百年程前に言った“暗黒の世界というものはほんの影に過ぎない。その背後の手の届く場所には喜びがある。暗黒の中にも一筋の光と至福があり、それは目に見えるものだ。どうかその一筋の光を見て欲しい”という、人の心を動かさずにはいられない言葉もこの映画に託したかった」(キャプラ)