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遥かなるクルディスタン
  (1999年 トルコ=ドイツ=オランダ)
  監督: イエスィム・ウスタオウル
  原題: JOURNEY TO THE SUN
  主要舞台: クルディスタン
    提供:シネマスコーレ、若松プロダクション
発売元:紀伊國屋書店
販売元:紀伊國屋書店
本体価格:¥4,800
品番:KKDS-74
詳細:紀伊國屋書店製作ビデオ・DVD作品一覧

  忘れられた、中東最大の「少数」民族、クルド人。西欧列強の独善的な野望に翻弄され続けた彼らクルド人は、第一次大戦以降の政治的駆け引きによる線引きの為、独自の国家を持てずに、イラン、トルコ、イラク、シリアなどに散在して暮らすことを余儀なくされている(『酔っぱらった馬の時間』の項参照)。イラク・クルディスタンに於ける、フセインのクルド人徹底弾圧は記憶に新しいところだ。
  『酔っぱらった馬の時間』はイラン国内在住のクルド人を描いた作品であったが、本作は、トルコの女性映画監督イエスィム・ウスタオウルが、トルコ政府からいわれなき抑圧を受け続けるトルコ国内在住クルド人側の視点に立って制作した、魂の一編である。「(本作制作の)一番の理由となったのは二つのニュースです。一つはダムのせいで水面下に沈んだクルド人の村のニュースで、もう一つは閉村になった村のニュースです。この二つのニュースを見て私は、トルコの人々にあまりよく知られていないこの地域の状況を描いた映画を作ろうと思ったのです。(中略)知らなかったことに気付き、それについて考えて欲しかったのです」(ウスタオウル)
  トルコ国内在住のクルド人は約千二百万人。1991年まで公共の場でクルド語を話すことすら許さず(!)、その存在自体を認めないというトルコの非道な政策は、日本政府がアイヌに、ウチナーに、戦前戦中の朝鮮民族を筆頭とするアジアの諸民族に行った、民族圧殺政策を思い起こさせる話だ。
  トルコ国内でクルド住民が強制退去させられ廃村となった村は三千以上にものぼり、結果として、彼らの移住先である大都市では、排他的な民族差別の心性が広がりつつある。
  本作は、辺境から大都市イスタンブールに出て来たクルド人青年、出稼ぎのトルコ人青年、ドイツ生まれのトルコ人女性を巡る、国家の横暴に翻弄される三人の若者を描いた青春群像劇である。

  トルコ西部のティレからイスタンブールにやって来て数カ月のメフメットは、水道局の下請けの仕事をしている。描かれるのは、クリーニング店で働く恋人アルズとの仲睦まじいデートの様子だ。
  ある日メフメットは、サッカー観戦に熱中するトルコ人の愛国者達に襲われ、通りがかりのクルド人ベルザンに助けられる。ミュージック・テープ売りで生計を立てているベルザンは、反政府活動をしている為に国家警察からマークされているような反骨だ。大都会の片隅で踏んばる田舎者同士、お互いの胸の内を語り合う二人であった。

  デートの帰り、メフメットの乗るバスが警察の検問に遭い、メフメットは身に覚えのない拳銃不法所持の罪で投獄されてしまう。以前から黒い肌ゆえにクルド人と間違えられがちなメフメットに、警察の訊問は容赦ない。拷問により全身に傷を負ったメフメットが釈放されたのは一週間後。帰宅した彼の部屋のドアには、クルド人が住むことを示す赤いバツの文字が落書きされており、恐れたルームメートからは追い出され、水道局の仕事も追われるメフメットであった。
  ベルザンの助けでなんとか職と住居を得たメフメット。培われる二人の友情の中、ベルザンはメフメットに打ち明ける。「いつか故郷へ帰りたい。恋人のスィルヴァンと結婚して家を建てるんだ」
  しかしそんな矢先、ベルザンはクルド人弾圧反対デモで逮捕され、拷問の末に殺されてしまうのであった。
  ベルザンの遺体を引き取るメフメットとアルズ。メフメットは、盗んだ車にベルザンの遺体を乗せ、ベルザンの恋人スィルヴァンの待つゾルドゥチへと旅立つ。しかし、彼がクルディスタンへと向かう東方の旅で目の当たりにした光景は、クルド民族の現実そのものであった。廃村。大都会へ向かう家族。クルド人を制圧する戦車……。
  そして、到着したベルザンの故郷ゾルドゥチは、ダムの底であった。

  映画は、ベルザンの死を介して逞しく成長してゆくメフメットを映し出す。田舎から出て来たばかりの、政治的にも素朴な青年が、亡き友のアイデンティティーを引き受け、強さを身に付けてゆく過程そのものが、劇中の「東方への旅」に重ね合わされるのだ。
  ラスト・シーンのあとメフメットはどうなるのでしょう、との質問に、監督は答えている。「成長するのだと思います。彼は強さを身に付けました。ベルザンの立場を理解し、現実を知った彼は、以前ほど世間知らずではないはずです。彼は戦い方を学ぶでしょう。恋人を守ろうとするはずです。様々なことに立ち向かうすべを身に付けていくと思います」。そう、クルド人にのしかかる過酷な現実を描きながらも、本作のトーンが暗く沈澱しないのは、本作が、未来に希望を託した監督の強い視線に貫かれているからに他ならない。若い三人の瑞々しい演技にも注目だ。
  本作は、世界中で数々の賞に輝いたのにも拘らず、体制側がトルコ映画界を完全に牛耳る為、配給、上映に於いてことごとく苦難を強いられた。上映後も、観客の大絶賛なんのその、マスコミ、批評家は完全無視を決め込んだそうだ。あわれな国粋主義と自粛の波は世界的潮流にあるようだが、まあ見ておけ。「ホンモノ」は決して黙らないのだ!