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息子の部屋
  (2001年 イタリア)
  監督: ナンニ・モレッティ
  原題: LA STANZA DEL FIGLIO (THE SON'S ROOM)
  主要舞台: イタリア
    発売元:東芝エンタテインメント
販売元:アミューズソフトエンタテインメント
税込価格:¥2,625

  リベラルな論客でもあるモレッティの諸作品に通底してあった社会批判と皮肉は影を潜め、ダイレクトに家族、個人のドラマを描いた入魂の力作が本作『息子の部屋』である。『親愛なる日記』や前作『エイプリル』のような身辺雑記風セミ・ドキュメンタリーも諧謔のパンチが効いていていいが、モレッティはここに来て芸風を一変、本作にあるのは、ネオ・レアリズモの伝統や昨今のイラン映画を思わす、簡潔さから立ち上る感動だ。
  いつも通りモレッティ自ら、精神分析医の主人公ジョバンニ役で出演、難しい心理描写を見事に演じきり、事故で最愛の子供を亡くした家族の喪失感、緩やかな再生を描いている。

  舞台はアドリア海沿岸の小都市アンコーナ。精神分析医ジョバンニは、妻パオラ、娘イレーネ、息子アンドレアとの、ユーモアに溢れた暖かな家庭を築いている。少々退屈ではあるものの、不足のない平穏な毎日である。
  そんな穏やかなある日曜日、家族をどん底に突き落とす悲劇が起こった。息子アンドレアの突然の事故死である。
  その日の朝食の席、ジョバンニは、アンドレアをジョギングに誘ったのだが、担当患者から「どうしても気分が塞ぐので話を聞いて欲しい」という電話が入り、往診を優先する。アンドレアは、友人達とダイビングに出かけ、潜水中の事故で命を落としてしまうのであった。
  淡々と描かれる検死、火葬、ミサ。そのシンプルさが、より悲劇の痛みを浮上させる。

  幸福な生活は断ち切られ、深い悲しみの中、互いの感情の些細な行き違いから、家族の心は次第に離れてゆく。
  ジョバンニは、「あの日、自分が往診にさえ出なければ」という後悔と自責の念に捕われ続け、精神分析医としての仕事に集中出来ない。決してやり直すことの出来ない「あの日」。そして遂には診療所を畳む決心をするのであった。
  家族の心がバラバラになりかけていたある日、アンドレア宛てに一通の手紙が届く。差出人は聞いたことのない名前の女の子。夏休みのキャンプで知り合ったアンドレアのガールフレンドであった。
  彼女の突然の来訪に、応対したジョバンニは、アンドレアが送ったという数枚の写真を見せられる。そこには、息子の部屋で、しかし家族の誰もが見たことのない表情の息子が笑って写っていた。徐々に「息子の死」という現実に折り合いをつけてゆく家族。
  実は彼女にはボーイフレンドがいた。パリへのヒッチハイクの途中に立ち寄ったのであった。ここでは、唖然とする家族が滑稽でいい。
  ジョバンニの運転する車に、妻と娘、ヒッチハイクの二人。地中海沿岸の国境の町で二人を見送る家族に、ブライアン・イーノの <BY THIS RIVER> が重なる。
  静かな波に洗われる砂浜。佇む三人。再生の予感である。

  痛み。迷い。孤独。受け入れることの出来ない現実。
  モレッティは本作で、時に人生が苦悶し立ち止まることを認め、魂が静かに寄り添う姿を祝福するのだ。