オンライン魂花時報WELCOME TO NAKAGAWA TAKASHI'S WORLD中川敬のシネマは自由をめざす!リスト > チャイナタウン
NAKAGAWA TAKASHI'S ALL CINEMAS GO FORWARD TO FREEDOM !
チャイナタウン
  (1974年 アメリカ)
  監督: ロマン・ポランスキー
  原題: CHINATOWN
  主要舞台: アメリカ
    発売元:パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
作品名:チャイナタウン
価格:¥4,179(税込)好評発売中

  2002年、『戦場のピアニスト』でカンヌ映画祭パルム・ドールに輝いたロマン・ポランスキー。彼の数奇な人生はその生い立ちにまで遡る。
  ナチスが政権を掌握した1933年、ポーランドのユダヤ人家庭に生まれたポランスキーは、母をアウシュビッツ強制収容所のガス室で亡くし、戦後、スターリニズムの暴風雨の中、映画への道を歩んだ。『水の中のナイフ』(1961年)で監督デヴューしたのち、ポーランドの検閲に幻滅し、パリへ移住。以降、『反撥』『袋小路』『吸血鬼』『ローズマリーの赤ちゃん』等の傑作を、欧米で制作している。
  そして、何よりも忘れられない凄惨な事件、シャロン・テート殺人事件は1969年8月9日に起こった。チャールズ・マンソン率いるカルト集団の信者に、九か月の子供を身籠った愛妻、シャロン・テートを惨殺されるのだ。詳しくはここで触れないが、必死の懇願(「お願いだから助けて!  私は赤ちゃんを生みたいの!」)も虚しく、殺人鬼達は彼女を滅多刺しにしたのだ。当時のポランスキーの心中は、想像を絶するに余りある。
  アメリカを離れ、欧州で心の傷を癒していたポランスキーに舞い込んで来たオファーは、ハリウッドの仕事であった。電話の主は、飛ぶ鳥の勢いのジャック・ニコルソンだ。ロスへの復帰に躊躇するポランスキーは、ニコルソンを想定した秀逸な脚本に心動かされ、遂に渡米を決断するのであった。
  「ロサンゼルスは私の最も行きたくない場所だったが、私は映画を撮りたくて仕方なかった。ロサンゼルスの歴史、行政上の境界線が如何に人間の欲によって形成されているのか、これは私にとって新しいテーマだった」(ポランスキー)
  本作『チャイナタウン』は、『イージー・ライダー』以降作品ごとに味わいを増す、ジャック・ニコルソンによるハードボイルドな探偵もので、フェイ・ダナウェイ(『俺たちに明日はない』)のヒロイン抜擢も、この優れたフィルム・ノワール作品を決定づけている(当初予定されていたジェーン・フォンダでは駄目だ。のちにポランスキーは語っている。「フェイは戦前の毋を彷佛させる。私の毋は流行に敏感な女性だったんだ」)。
  サスペンスやホラーから、『テス』のような時代物まで、手掛ける作品の振り幅が大きいポランスキーではあるが、共通する質感はその微細な心理描写にこそある。ヌーベルヴァーグ勢の言動を「革命ごっこ」と切り捨てるポランスキーの、人生経験に裏打ちされた人間描写は、ニコルソン、ダナウェイ、ジョン・ヒューストン(!)という絶妙の配役を得て、本作で完璧な域に達している。
  なお、ポランスキー自ら、ニコルソンの鼻をナイフで切り裂く不気味な殺し屋役で出演している。

  舞台は1937年のロサンゼルス。私立探偵のジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)は、元チャイナタウンの警官だ。
  ある日ジェイクは、ダム建築技師であるホリス・モウレーの妻と名乗る女性から、夫の浮気調査を依頼される。しかし、本当の妻イヴリン・モーレー(フェイ・ダナウェイ)の登場により、地質上の危険性を訴え、ダムの建設に反対するホリス・モウレーを失脚させる為の策略であることが分かってくるのである。
  ある日、ホリスはダムの放水溝から溺死体で発見され、ことの背景に水道電力の利権があることを嗅ぎ付けたギテスも、調査を進める内に、謎の男達から命を狙われるようになるのであった。
  そして浮かび上がってきた男は、イブリンの父で政界の黒幕でもあるノア・クロス(ジョン・ヒューストン)。ロサンゼルスは元来、不毛の砂漠地帯に築かれた人工都市であり、暗躍する巨悪の影は必然でもあった。クロスはロス郊外の砂漠地帯を手広く買い占めており、新ダム建設によって厖大な利益が転がり込むという仕掛けになっている訳だ。
  物語は、イヴリンに対する疑惑から始まり、観る者に政治的黒幕の存在を意識させながら、怒涛の終盤へと急展開する。核はダナウェイ扮するイヴリンの存在だ。ミステリアスなダナウェイの名演あってこそ、観る者は展開への当惑を持続出来る。
  そして、クロスと娘イヴリンの確執、謎の女の正体等がくんずほぐれつしながら、「魔窟」チャイナタウンへと物語は帰結してゆくのだ。

  悲劇的なエンディングは、当初ハッピーエンドを望んだプロデューサーに猛反対した、ポランスキーによるものだ。ポランスキーは、この普遍的な巨悪との闘いを観客が引き継げるようにしたかった、とのちに語っている。
  ハリウッドのハードボイルドものに付き物の「弾の無駄使い」も本作にはなく、実話を下敷きにした入念な脚本と、絶妙な配役、そして、全編を覆う独特な退廃的質感が、やるせない余韻を醸すのである。
  数あるポランスキー映画の中でも『チャイナタウン』は、ベストを競う、クライム・サスペンスの名作だ。