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ニュー・シネマ・パラダイス
  (1989年 イタリア)
  監督: ジュゼッペ・トルナトーレ
  原題: NUOVO CINEMA PARADISO
  主要舞台: イタリア
    DVD『ニュー・シネマ・パラダイス  完全オリジナル版』
¥3800(税抜)
発売:アスミック

  本作は、ジュゼッペ・トルナトーレの故郷シチリア島を舞台に繰り広げられる、映画とそれを取り巻く人々への深い愛情、オマージュ、ユーモアに溢れた「半自伝的」作品だ。
  とにかく着眼点がいい。戦後、庶民にとって唯一の娯楽であり、また貴重な社交場でもあった映画館。その映写幕に写し出される数々の名画。映写室から放たれる光の先に、人々はまだ見ぬ世界、未来、夢を思い描いたのだ。

  戦後まもなくのシチリア島ジャンカルド村。主人公のトトは、村のパラダイス座に通いつめる、部類の映画好き少年だ。母、妹との生活の中、ローマ戦線から帰らない父の記憶はおぼろである。
  トトは、初老の映写技師アルフレードのいるパラダイス座の映写室に潜入を繰り返し、程なく二人は親子関係を超えた強固な友情の絆で結ばれてゆく(アルフレードを演じるフィリップ・ノワレが素晴らしい)。司祭の検閲によってカットされたキス・シーンのフィルムが欲しくてたまらないトトに、アルフレードは、自分が保管することを条件に、フィルムをあげる約束をするのであった。

  本作の真骨頂は、至る所にちりばめられた名画へのオマージュにもある。『どん底』『駅馬車』『揺れる大地』『にがい米』『素直な悪女』。劇中劇さながらに挿入される名画の断片は、ノスタルジアにとどまらずに、人生の厳しさ、寂しさ、そして素晴らしさへと誘うのだ。戦後、「世界中のトト達」にとって映画は社会への窓であり、銀幕の新世界に夢を馳せた多くの人々は、老若男女問わず、取り憑かれたように映画館へ通いつめた。パラダイス座も、村の雑多な人々がその疲れた心を癒す為に、いつも超満員だ。
  ある日、パラダイス座を襲った火事によりアルフレードは全盲になる。子供ながらも、トトに映写技師の仕事は託され、時代の変化は、再建されたパラダイス座にキス・シーンをも登場させる。
  時は流れる。青年になった映写技師トト。そして、エレナとの本気の恋。
  しかし、徴兵により恋は失意に変わり、人生の挫折を知ったトトにアルフレードは言う。「村を出ろ。ここにいると自分が世界の中心だと感じる。何もかも不変だと感じる。今のお前は私より盲目だ。人生はお前が観た映画とは違う。人生はもっと困難なものだ。帰って来るな。私達を忘れろ。手紙も書くな。郷愁に惑わされるな。我慢出来ずに帰って来ても、私の家には迎えてやらない。分かったか。自分のすることを愛せ。子供の時、映写室を愛したように」。アルフレードのトトに対する深い愛を感じる名シーンだ。とどまるな、俺のようになるな、夢に羽ばたいてくれ!
  三十年後、映画監督として大成したトトはアルフレードの葬儀の為に初めて帰郷する。
  老いた母。エレナとの再会。閉館するパラダイス座。しかし、変わらないものがあった。それは、エレナ以降、本気では誰も愛せないトトの、何処にも帰結しない孤独な心だ。
  ローマに帰り、一人試写室でアルフレードの形見のフィルムを観るトト。それは、子供の頃検閲でカットされた数々のキス・シーンを繋ぎ合わせたフィルムであった。笑いながらも涙が溢れるトト。美しい最高の名シークェンスだ。禁じ手ではないか!  と思いつつも、何度観ても毎度胸に迫るラスト・シーンである。
  この形見のフィルムは、亡き後もなおトトを導くアルフレードの遺言だ。
  人生を知れ、愛を恐れるな!

  本作は、回想の形式をとり、しかも「映画」を主題に回顧する男を描いている。にも拘らず、ここにあるのは、まばゆいばかりの未来への指向であり、過去の中で完結することを固く拒否する人生讃歌である。孤独な心を慰安してくれる銀幕に人々は吸い寄せられ、しかしそこにとどまることを良しとせず、人々は映画の方を人生に手繰り寄せるのだ。回顧し、明日の為に行動する人々の映画であるからこその強さが本作にはある。映画を観続ける理由とは?  『ニュー・シネマ・パラダイス』のような映画と出会える幸福があるからではないか。
  イタリア映画界の巨匠フランチェスコ・ロージは、本作を「映画の神秘、その魅力。人を笑わせ、泣かせ、夢見させる、その力。トルナトーレは、この美しい映画の中で、これらすべての感情を与えてくれる。映画の中で私達の誰もが認めるのは、子供時代の無邪気さと好奇心、初恋の苦悩、希望、幻滅、喜びといった、人生の最も誠実な瞬間である」と絶賛した。
  なお現在「完全オリジナル版」として出回っている三時間ヴァージョンは、やや詰め込み過ぎの感を否めない。エレナとの再会がくどく、いつしかメロドラマ化してしまうのだ。初めて観るなら初出の「劇場公開版」だ。