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レセ・パセ<自由への通行許可証>
  (2002年 フランス)
  監督: ベルトラン・タヴェルニエ
  原題: LAISSEZ-PASSER(SAFE CONDUCT)
  主要舞台: フランス
    品番:BIBF-3720
税込価格:,990
発売元:株式会社ハピネット・ピクチャーズ
販売元:株式会社ハピネット・ピクチャーズ
©LES FILMS ALAIN SARDE LITTLE BEAR FRANCE 3 CINÉMA FRANCE 2 CINÉMA
KC MEDIEN VERTIGO AVEC LA PARTICIPATION DE CANAL

  第二次大戦中、ドイツ占領軍はフランス人の行動を制限する為に移動の自由を奪ったが、仕事で必要な者には通行許可証を発行した。タイトルの「レセ・パセ」とは通行許可証のことである(挿入歌に使われているシャンソン<時の過ぎゆくままに>の原題は「レセ・パセ」)。
  1940年、独軍は電撃作戦でフランスに侵攻、短期間で国土の三分の二を掌握し、ヴィシー傀儡政権を立ててフランスを占領統治下に置いた。
  同年、ドイツはプロパガンダの為、パリに映画会社コンティナンタル社を設立するも、経営者のドイツ人アルフレート・グレフェンが特にプロパガンダ作品を作ることを強制しなかった為(とはいえ、むろん微細な検閲は入った)、皮肉にもここからフランス映画を代表する数々の古典が誕生している(1944年ドイツ敗走までの間、コンティナンタル社は三十本の作品を制作している。本作には『密告』『悪魔の手』『貴婦人たちお幸せに』『セシルは死んだ』等の映画を制作するシーンが登場する)。
  本作は、ナチス・ドイツ占領に抵抗しながらもコンティナンタル社で映画を撮り続けた、実在する映画人達の史実に基づく物語である。
  主要人物は二人。一人はレジスタンスに参加しながらもコンティナンタル社に助監督として入社するジャン・ドヴェーヴル(監督作に『11時の貴婦人』『七つの罪の農場』)。もう一人は女とペンに情熱を傾ける軟派な脚本家で、唯我独尊を貫きコンティナンタル社からの誘いを断り続けるジャン・オーランシュ(『肉体の悪魔』『禁じられた遊び』『可愛い悪魔』)。名匠ベルトラン・タヴェルニエは実際にこの二人の作品から多大な影響を受けている(ヒット作『田舎の日曜日』の原作は、オーランシュの相棒ピエール・ボスト)。
  タヴェルニエはジェラール・ジュノの『バティニョールおじさん』同様、「私ならどうしたか?」という自問自答をテーマに置き、非常時に於いても映画を愛し続けた当時のフランス映画人へのオマージュを形にした。また、十把一絡げに対独協力者というレッテルを貼られ続けてきた映画人達の汚名をそそぐことにも貢献している。
  タヴェルニエは語る。「客観的な物語を描こうとしたのではない。ナチスへの対応の正誤を問おうとしたのでもない。当時の状況が如何に複雑であったか。人々が多様な感情を持っていたことを示したかった。彼等の選択を描きたかったのだ」
  ジャン・ドヴェーヴルの回想を元に脚色した、監督の愛に詰まった長篇感動作である。

  舞台は1942年3月、パリ。『北ホテル』で知られる脚本家のジャン・オーランシュ(ドゥニ・ポダリデス)は、占領下の沈滞するフランス映画界に於いても、コンティナンタル社の仕事依頼を頑に受け入れない男。しかし観察眼に優れたペンの鬼も、こと女性に関してはからっきし制御の効かない浮気者である。この日も、英軍の空爆をよそに大女優スザンヌ・レモン(シャルロット・カディ)と密会である。
  空爆下の混乱する街を疾走するもうひとりの男ジャン・ドヴェーヴル(ジャック・ガンブラン)は、妻シモーヌ(マリー・デグランジュ)と息子の安否確認の為に託児所へ。子供の無事を確認し、ドヴェーヴルが次に急ぐ場所は、ブーローニュの映画撮影所だ。彼は助監督として、クランク・アップ直前のリシャール・ポティエ監督作『城の中の8人の男』の陣頭指揮を執っていたのである。低予算と迫り来る期日、更に慢性的フィルム不足に悩まされながらも、映画作りに精魂を傾ける日々であった。
  そして、ドヴェーヴルの隠されたもう一つの顔。それはレジスタンス活動家である。
  顔のない密告者によって同志が次々連行される中、ドヴェーヴルは助監督仲間のユダヤ人ル・シャノワ(ゲッド・マルロン)から地下活動のチラシ原稿を受け取り、妻シモーヌにタイプを打ってもらう。ル・シャノワからコンティナンタル社の助監督にと請われたドヴェーヴルだが、まさか自分がドイツ資本の会社で働くなんて考えられない。表現者としての矜持もある。しかしル・シャノワは言う。「敵の陣地に飛び込んだ方が安全さ」
  結局誘いに応じたドヴェーヴルにはフランス中を自由に往来出来る「通行許可証(レセ・パセ)」が支給されるのであった。
   一方のオーランシュは、コンティナンタル社からの仕事依頼を断る為の隠れ蓑に、旧知の監督ロジェ・リシュべ(オリヴィエ・グルメ)から山のような仕事の約束を取り付ける。資料の詰まった大きなトランクを抱え、夜毎女達の部屋を渡り歩くオーランシュは、高級娼館に住み込みで働く娼婦オルガ(マリー・ジラン)の許に転がり込み、混乱する胸の内を吐露するのであった。「自業自得だけど断ることが出来ないんだ。今や脚本3本に女性4人を抱え込んでいる」
  ドイツ軍用列車の爆破などの武力闘争の傍ら、撮影現場ではその仕事ぶりからレジスタンス活動を微塵も窺わせないドヴェーヴル。
  オーランシュは、偶然再会した脚本家ルネ・ウィーレールが路上で靴紐を売ることで日銭を稼いでいるのを目の当たりにし、彼との共同脚本を条件に、遂にやむなくコンティナンタル社の仕事を引き受けるのであった。
  1943年3月。ドヴェーヴルの計らいでエキストラとして働いていたシモーヌの弟ジャックが、カバンの中からレジスタンスのチラシを発見され連行される。彼がその後、二度と皆の前に姿を現わすことはなかった。
  一方のオーランシュは、オルガへの置き手紙に記す。「書く勇気はあるが、苦痛には耐えられない。でも、この恥の時代に戦いを挑む、僕の唯一の武器で。食う為に書くのはやめる」と。それは軟派男初の明確なレジスタンス宣言でもあった。しかし口実を作り、次なる女レーヌ(マリア・ピタレシ)の許に転がり込むオーランシュでもあった。
  ひねもす空爆。片道385キロ、妻子の疎開先へ自転車をひたすら漕ぐドヴェーヴル。流感に掛かった彼の、地下活動にちりばめられたユーモアが爆笑を誘う(このあたりは観てのお楽しみ)。
  1943年11月。オーランシュの食卓。仲間のピエール・ボストは脚本執筆の意義について静かに語る。「職人たちの人生が脚光を浴びる。その上、こんなにいい友人に恵まれた」
  そして、ル・シャノワの逮捕を知ったドヴェーヴルは「弟の具合が悪いので薬局へ」と言い残し、自転車で撮影所を後にする。
  十七時間、ひたすら続く一本道。ペダルを踏み続ける男はレジスタンスの同志の許へ向うのだ。その後、彼がコンティナンタル社の撮影所に戻ることは二度となかった。
  53年後の2000年4月、ジャン・ドヴェーヴル(本人)は言う。「もし、あの時代に戻ったとしても、また同じことをするだろう」と。

  劇中、自らの人生を貫いた二人は、ただすれ違い交差してゆく。対称的な二人の共通項は「抵抗」にある。人の数だけ生き様もあるというものだ。この丁寧な人物描写はタヴェルニエの愛の深さ故。撮影終了後、本作を観たドヴェーヴル本人も出来に大満足ということだ。
  単純な善悪の二極対立を避け、劇中の女性が皆個性に溢れ魅力的に描かれている点もいい。
  前作『今日から始まる』では、北フランスの炭鉱町で人々の貧困生活に対応する幼稚園園長を描いたが、そこにはとても商業映画として成功するとは思えない「確信」があった。演出力もさることながら、その着眼点にタヴェルニエの誠実で真摯な姿勢を感じるのだ。ベルトラン・タヴェルニエ、要チェックである。
  なお、ジャン・ドヴェーヴル役のジャック・ガンブランは、『クリクリのいた夏』でも印象的な演技を見せている。