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ボウリング・フォー・コロンバイン
  (2002年 カナダ)
  監督: マイケル・ムーア
  原題: BOWLING FOR COLUMBINE
  主要舞台: アメリカ
    「ボウリング・フォー・コロンバイン デラックス版」
DVD発売中:,700(税抜)
発売元:タキコーポレーション/東芝エンタテインメント
販売元:タキコーポレーション

  御存じ、アメリカ社会の暗部を抉り出し続けるマイケル・ムーア監督の超話題作。
  1999年4月、米コロラド州のコロンバイン高校で十七歳と十八歳の男子生徒二人が銃を乱射、生徒十二人教師一人を殺害し、後に自殺するという事件が発生した。
  マイケル・ムーアは、米国民に大きな衝撃を与えたこの事件をベースに銃社会アメリカの深層を探ってゆく。 ムーアは人の良さそうな風貌で精力的に「アポなし突撃取材」を敢行、取材対象者に容赦のない厳しい質問をぶつけてゆく。隣国カナダの銃犯罪状況、男子生徒が帰依していたハード・ロック歌手マリリン・マンソン、俳優で全米ライフル協会(アメリカ最大の銃擁護団体にして最大級の圧力団体)会長のチャールトン・ヘストン、男子生徒が銃を購入した Kマート。そしてその屈託ない対話から、人が隠したいと思っている心の内面を立ち上らせてゆくのだ。見事である。
  しかし、そうした取材の過程はムーア自身の当初の意図を越えてゆく。銃を規制することだけで済む問題ではない、これは病んだアメリカそのものの問題なのだと。
  ムーア曰く、本作は「我々アメリカ人が、隠し持った大量の銃で殺し合い、世界中の多くの国々に対しても銃を使用するような比類なき暴力的国民である、ということを訴えている映画」であり、「ジョージ・ブッシュが架空の恐怖で国民を脅し、思うがままに野心を達成させている、ということを暴露する映画」であり、「アメリカには(これまで十年間の)イラクの子供達五十万人の死に対して責任がある、ということを申し立てる映画」なのである。
  アカデミー賞「ドキュメンタリー部門最優秀作品」受賞時に、ムーアは物議を醸す有名なスピーチを行っている。「ノンフィクションが好きだからね。ノンフィクションが好きなんだけれど、でもフィクションの時代を生きている。僕らはインチキな大統領を選び出してしまうようなインチキな選挙をするような時代に生きているんだ。嘘の理由で僕らを戦場に送り込むような奴がいる時代を生きているんだ。とにかく、僕達はこの戦争には反対なんだ。ブッシュよ、恥を知れ。 お前の持ち時間は終りだ!」
  画期的な「アメリカ映画」の誕生だ。

  1999年4月20日、人々はいつも通り各々の朝を迎え、いつも通り仕事へ出かけ、米軍は相も変わらず他国の内政に干渉し(この日、米軍は旧ユーゴのコソボ紛争に於いて最大の爆撃を敢行した。しかし米国民の多くは、アメリカが爆撃している国の名前すら知らない)、コロラド州にある小さな街リトルトンでは二人の生徒が朝からボウリングをしていた。
  そんな普段通りの穏やかなはずの朝は、ボウリングを終えた二人の少年がコロンバイン高校で銃を乱射することによって打ち砕かれる。ナチズムを信奉する「トレンチコート・マフィア」というグループに属していた二人による「コロンバイン高校乱射事件」である。そう、4月20日はアドルフ・ヒトラーの百十回目の誕生日にあたる。
  犯行前、少年のウェブサイト上の日記には次のような記述があった。 「私の理想を教えてやる。自分が法律になることだ。このことが気に入らない奴には死んで貰う。デンバーに住む人間を出来るだけ殺してやる」
  メディア上の暴力氾濫が原因なのか。家庭崩壊の為なのか。高失業率が原因なのか。それとも過激な音楽の悪影響なのか。少年達が聴いていたマリリン・マンソンにまでその矛先は向けられ、ライブがコロラド州で中止に追い込まれる事態を生む。
  そんな中、一人のジャーナリストが社会に問いを発した。「マリリン・マンソンのライブを禁止するのなら、なぜボウリングも禁止しないのか?」
  ホワイトハウス公式認定危険人物、マイケル・ムーアの登場である。
  「何故アメリカだけに銃犯罪が多発するのか?」
  日本39人、オーストラリア65人、イギリス68人、カナダ165人、フランス255人、ドイツ381人、アメリカ11127人。これはある年の一年間に銃で殺害された人数だ。この突出した数字は一体何を意味するのか。人口二億五千万人に対して、出回っている銃の数が約二億三千万本のアメリカ合州国とは?
  アメリカは気軽な銃所持が可能だ。銀行の景品が銃であったりする(!)。弾丸がスーパーで売られていて、未成年者でも大量に購入出来る。
  更に、悲劇的な事件が起こる毎に巻き起こる銃規制の声に対して、全米ライフル協会はそれに真っ向から反対する集会を開く。会長は有名俳優のチャールトン・ヘストン(『十戒』『ベン・ハー』主演)。
  ムーアはコロラドにある大きな軍需産業の一企業にも取材へゆく。担当者は巨大ミサイルを背後に従えながら無差別殺人を批判し、少年達の事件と軍需産業に何の関連があるのだ、と呆れたように述べるのだ。
  彼の「アポなし突撃取材」は、確信犯的無邪気さとブラック・ユーモアを武器に、アメリカ社会を、権力を、容赦なく裁断してゆく。
  侵略戦争に明け暮れるアメリカ通史のアニメーション等をはさみながら(これが秀逸)、恐怖や敵を作ることで社会のバランスをとり、情報を消費し、自己防衛という大義で武器を持ち、国内で年間一万人以上の銃による死者を出しながらも「正義」を振りかざす、そんなアメリカが見えてくる。権力者が捏造、情宣する「恐怖の文化」こそが、アメリカの病原なのだ。
  メディアが連日放送する犯罪映像は必ずと言っていい程黒人である。ムーアは番組制作プロデューサーに「何故、黒人ばかりなのか」と尋ねる。その方が視聴率が稼げるとの答。ムーアは「金融犯罪の方が被害額は大きいし、犯人は白人ばかりだ。上司に不満を持つサラリーマンが見たらスカッとするよ」と提案する。
  エンディング。ムーアは映画の総括に、銃の所持を奨励する広告塔、全米ライフル協会会長のチャールトン・ヘストンへのインタビューを試みる。ヘストンに対し「アメリカの銃問題」を厳しく追求するムーア。対して「アメリカの歴史は血に塗れた歴史だ。それに、他国に比べて多くの人種がいる」と、自分が人種差別主義者であることをも露呈してしまうヘストン。苛立ったヘストンはインタビュー途中で退席する。それを追うムーア。
  振り返りもせずに立ち去るヘストンにムーアが叫ぶ。「これを見てやってくれ」
  それは六歳の男の子が射殺した、銃による最年少殺人事件被害者の少女(六歳)の大きな肖像写真であった。

  ルイ・アームストロングの歌う<この素晴らしき世界>をバックに、朝鮮戦争後のアメリカが仕掛けた際限なき軍事侵攻の歴史を辿ることが出来る。これが「第四帝国」アメリカの本質である。以下にそのまま転載しよう。
  1953年、アメリカはイランのモサデク政権を転覆、パラヴィー国王の独裁政権を樹立
  1954年、グアテマラの民主的政権を転覆、二十万人を殺害
  1963年、南ベトナムのディエム大統領暗殺を支援
  1963〜75年、米軍は東南アジアで四百万人を殺害
  1973年9月11日、チリでクーデターを支援、民主派のアジェンデ大統領を暗殺、ピノチェット独裁政権を樹立、五千人のチリ人を殺害
  1977年、エルサルバドルの軍指導者を支援、七万人の民間人と四人の米国人尼僧を殺害
  1980年、対ソ連政策でオサマ・ビン・ラディンらテロリストを訓練、CIAは彼等に三十億ドルを供与
  1981年、レーガン政権は「コントラ」を援助、三万人のニカラグア人を殺害
  1982年、対イラン政策でフセインに数十億ドルを供与
  1983年、対イラク政策でイランに武器を秘密供与
  1989年、CIA兼パナマ大統領のノリエガが、米政府に反発。米政府はパナマに侵攻、ノリエガを逮捕。三千人のパナマ民間人が犠牲に
  1990年、アメリカからの武器でイラクがクウェート侵攻
  1991年から現在も毎週、イラクを爆撃。国連の推計では、爆撃と制裁で五十万人の子供が死亡
  2000〜2001年、アメリカはタリバン政権下のアフガンに二億四千五百万ドルを「援助」
  2001年9月11日、ビン・ラディンは(CIAで訓練を受けた)ゲリラを使い、三千人を殺害

  そして、2001年10月から現在も続くアフガニスタン侵略、2003年3月から現在も続くイラク侵略。
  我々は、この恐るべき「第四帝国」に首根っこを押さえられ、見事に情報統制された世界に住み、「ブッシュ大統領と共に断固としてテロと戦う」とのたまう史上最悪な総理大臣を頂く国に住んでいる訳である。
  以下はマイケル・ムーアの言葉だ。「観客が(アメリカの真実に)意気消沈して劇場を出れば、行動を起こそうなんて気にならない。めげる気持ちを怒りに変えるのがユーモアなんだ。グラウチョ・マルクスやレニー・ブルース等、最高のコメディアン達は怒りの人でもあっただろう。現実政治に対する風刺とユーモアのアメリカ的伝統は死んじまったけれど、真っ当な怒りを持ち続ける為にユーモアは必要なんだ」
  「戦争支持率70%(2003年4月時点)という世論調査に挫けてはならない。調査対象になったのは、自分の(または近所の)子供がイラクの戦地に行かされた人々だということを忘れないで欲しい。人々は兵を心配し、望んでもいない戦争を支持するように囲い込まれたのだ。残念なことに、ブッシュ一族はこれでも満足しない。この侵略と征服に味をしめて、彼等はどこでも同じことをするだろう。この戦争の真の目的は“テキサスの邪魔をするな、お前の物は俺の物”と全世界に宣言することだった。今は平和を信じる我々“多数派”が黙っている時ではない。声を大にしよう」

  世界中の大量破壊兵器のその殆どを所有する国はアメリカだ。「9・11」が示すのは防衛としての武器所持の無意味性である。今こそ現実主義的に「軍縮」の声をあげるべき時ではないか。
  最後にマハトマ・ガンジーの言葉を。「非暴力は決して弱者の武器として思いついたものではなく、この上もなく雄々しい心を持つ人の武器として思いついたものなのです」