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戦艦ポチョムキン
  (1925年 ソ連)
  監督: セルゲイ・エイゼンシュテイン
  原題: BRONEOSEZ POTEMKINE
(BATTLESHIP POTEMKIN)
  主要舞台: 旧ソ連邦圏
    発売元:株式会社 アイ・ヴィー・シー
「戦艦ポチョムキン」IVCF-2189
¥3,500(税抜)好評発売中

  2004年の現在、我々は、蹂躙された側の民が反撃すると「テロリスト」呼ばわりされるという、実に倒錯した世界に生きている。前世紀、異なる文化を、世界を繋いだとされる「映画」や「音楽」は、果たして如何なる「約束された未来」に貢献して来たのであろうか。

  本作は1905年6月、黒海オデッサ港で起きた「戦艦ポチョムキン・タヴリチェスキー公爵号水夫反乱事件」の史実を描いたもので、弱冠27才のセルゲイ・エイゼンシュテインの手によって、レーニンの死の翌年、「第一ロシア革命」二十周年記念映画として制作されたサイレント映画だ。ロシア革命の必然性だけではなく、二十世紀初頭の世界の潮流、人々の自由への渇望、抑圧に対する闘い、人間の平等を目指す人々の高揚がここにはある。映画史初のダイナミックな集団革命劇は、今も世界映画史上に名立たる古典として君臨している。
  専制の圧政に立ち上がる民衆の姿を新鮮な迫力で浮かび上がらせた本作は、公開後、当然のことながら世界各地で大きな反響を呼び、その結果、 共産主義台頭を恐れる勢力によって、上映禁止となったり、カット上映の憂き目にあったりした(皮肉なことにスターリン政権下のソヴィエト国内に於いてもだ)。日本では1959年、三十四年ぶりに自主上映運動の手によって公開され、四十二年後の1967年、初めて一般劇場公開された。

  二年目に突入した日露戦争の相次ぐ敗北、厭戦気分が蔓延する中(1月にはペテルブルグで「血の日曜日事件」が起こり、皇帝ニコライ2世の弾圧政治に対する不満が、民衆のみならず兵士にまで及んでいた)、黒海沿岸のオデッサ沖に碇泊中の戦艦ポチョムキンでは水兵達が密かに反乱の機会を伺っていた。
  6月14日、水兵達が腐乱肉入りのスープを飲むのを拒否。艦長の残酷な処刊に、募る不満は遂に爆発、水兵達は将校に怒りの反旗を翻した。一斉蜂起。将校達は海に投げ込まれ、水兵達は戦艦占拠に成功する。
  反乱軍はゼネストが進行するオデッサに入港。マストに掲揚される赤旗。
  反乱軍のリーダー、ワクリンチュクの遺体が横たわる岸辺には、死を悼んだ多数の市民が詰め掛けた。そして、スローガン「一人は皆の為に、皆は一人の為に」の下、ポチョムキンの水兵とオデッサの労働者の怒りは一つに。市民は水や物資を運んで水兵達を激励、お互いにツァーリズム打倒を誓い合ったのであった。
  しかし、ポチョムキンに声援を送ろうと港へ通じる大階段を下りて来た市民は、銃を構えたコサック兵の無差別一斉射撃に遭う。
  容赦ない殺戮。バタバタと倒れてゆく子供、母親、老人達。子供を踏み付けてゆく軍靴。石段を転げ落ちてゆく乳母車の赤ん坊。逃げまどう市民。この凄惨な地獄図は「オデッサの階段」として、映画史上最も有名なシークェンスである。今観ても戦慄のシーンだ。
  港内からこの惨劇を目撃したポチョムキン号は軍司令部に報復砲撃。 こうなれば政府軍黒海艦隊との応戦は必至である。
  夜明けの水平線には迫り来る黒海艦隊の艦影。迎撃の決意を固めたポチョムキンは錨を引き上げる。
  果たして彼らは敵なのか味方なのか。緊迫の一瞬。
  しかし、艦隊は発砲してこなかった。彼らも市民同様、ポチョムキンの同胞となったのである。
  響きわたる「ウラー(万歳)!」の歓声。
  こうして革命の第一歩は記されたのである。

  果たして『戦艦ポチョムキン』はレーニンの芸術保護政策に守られた単なる「プロパガンダ映画」なのか。誰もが論じたがる「モンタージュ理論」による隠喩性が斬新な「芸術作品」なのか。
  エイゼンシュテインは晩年、『イワン雷帝』の鋭い独裁者批判がスターリンの忌避に触れ、上映禁止になるという憂き目に遭っている。映画を大切にしたレーニンに比べ、スターリンは独裁者に過ぎた。その頃彼は友人に秘かに洩している。「『資本論』を映画化したい。社会主義の原点を考え直してみたいのだ。革命家にも色々あるからな」。
  最早映画を権力、反権力、善、悪の二極対立で描くことは出来ない。しかし、実際の現世はどうだ。世紀こそ変われど、世界は呆れる程「階級的」ではないか。
  『戦艦ポチョムキン』は決して色褪せることのない、多くの人々の祈りや願いに詰まった、優れた「レジスタンス映画」なのだ。